レストラン改善計画(三日目)
「スパゲッティのバイキングをします」
ここはレストラン"まんぷく食堂"の店内。異世界からやってきたボク、神人こより十五歳はレストランスタッフの前で宣言した。
明日はまんぷく食堂のリニューアルオープンの日。スタートダッシュで店を繁盛させなければならない。
リニューアルオープンはわざと平日にした。明日は金曜日。この地域は繁華街で、土日が混雑する。それほど忙しくはないだろう。ちょうどいいプレオープン(スタッフの練習)になる。
すでにボクがお世話になっているレストラン"バイキング"でも、リニューアルオープンのチラシを配布してもらっている。
「スパゲッティは四種類だす」
「ミートソース、ペペロンチーノ、スープスパゲッティ、和風スパゲッティだ」
「食べ放題のバイキング方式で時間は閉店の三時まで無制限。料金は一人千五百ウェン」
「それでは安すぎますわ!」
ルミリアの娘のロミリアがいう。
「だからやるんだよ」
「え」
「他店はスパゲッティ一皿千ウェンで出している。うちが四皿で千五百ウェンならどちらにいく。どちらを選ぶ」
「それは・・間違いなくウチに来ますわ」
「そう。飲食店は客に食ってもらわなきゃ話にならない」
「でも、良い物を作ってさえいれば客は来ます!!」
「その客が来る前に店が潰れてもか」
「!!」
どんな店でも当てはまるのだが、良い物を作りさえすれば、良い物を提供すれば黙っていても客が来ると思っている。
大きな勘違いだ。
お店なのだから良い物を作る、提供するのは当たり前。そのうえで宣伝を忘れてはいけない。
チラシをまく。
呼び込みをする。
口コミをおこす。
やれることはなんでもやる。ボクはバイキングだけでなく、冒険者ギルドのカウンターにもまんぷく食堂のチラシを置かせてもらった。
その見返りは受付嬢ラミリアさんとの一日デート(翌朝まで)なんだけどね。
「ギリギリ原価も割っていない。日曜日までは千五百ウェンで突っ走るぞ」
「「「サー・イエッサー!!!」」」
パンパン。手を叩く。そろそろお昼だ。シェフのロンゲと皿洗いのジタンダ兄弟がスパゲッティを持ってくる。
「さあ、みんな食べてくれ」
「店員が店の味を知らなければ話にならない」
「ここはこうしたほうがいい、こんな味がほしいなど、アドバイスは遠慮なくしてくれ」
「良いアドバイスは採用するし、時給も上げる」
スタッフ全員とボクもできたてスパゲッティを頬張る。
うん、どれも美味しい。ミートソースはトマトの旨味たっぷりで挽肉も良いアクセントになっている。
ペペロンチーノも辛いけれど、ニンニクがガッツリと効いている。スープスパゲッティはお子様や女性にも喜ばれるだろう。和風は醤油とダイコンおろしが絶妙なハーモニーを奏でている。
「美味しい!」
「これなら売れる!」
「あー、ニンニクがたまんない」
「和風はサッパリしていいですわ!」
よし従業員の評判も上々だ。
「一時まで休憩。午後からは明日の予行演習だ!それまではゆっくり休め!」
「「「サー・イエッサー!!!」」」
「いらっしゃいませ。まんぷく食堂へようこそ。何名様でしょうか」
「四名だ」
「四名様ですね。当店は前払いとなっております。合計で六千ウェンいただきます」
「はい」
「一万ウェンお預かりします。四千ウェンのお返しとなります」
「それではスタッフがお席までご案内いたします」
「うむ」
「ありがとうございます。四名様ご案内!!」
まずボクが接客の見本をやってみせる。次に同じことをスタッフ全員にやらせてみる。
「四名様、お席へご案内!!」
「うん。ロミリアよくできているよ」
「本当ですか!!」
「ああ。とても上手だった」
頭をなでてあげる。とても嬉しそうだ。見えない尻尾がブンブン振られている。
人に教える基本は褒めること。叱るばかりではいけない。まずやってみせる。次にやらせてみる。そして褒める。ダメなところを指摘するのはそれからだ。
有名な日本軍の提督もおっしゃっている。
「あと、一度はお客様にありがとうございますを伝えようね」
「わかりましたわ!」
さすがお嬢様。地頭はいいんだよな。これまでが酷かっただけで。
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次は案内係だ。
明日がオープンだけど、月曜日からのことも考えて一から教えることにする。
「こちらのお席でよろしいでしょうか」
「まんぷく食堂へようこそ。当店のご利用は初めてでしょうか」
「ありがとうございます。では当店のルールを説明させていただきます」
「当店は時間無制限の食べ放題となります。ただし、料理の持ち帰りと食べ残しはご遠慮くださいませ」
「使ったお皿やフォークは返却口にお戻しください」
「お帰りのさいはこのカードを裏返しにしてお帰りください」
「なにかご質問などはございますか」
「それではどうぞお楽しみください」
明日はオープン初日。お客様はすべて初めての方ばかりになる。だから当店のご利用は初めてでしょうかは言わなくていい。
しかし二日目以降は二度目のお客様も来る。そのためにこの挨拶が必要になる。
何度か来てくれる顔を覚えた常連さんは席に案内するだけでいい。さっさと食べたいだろうからね。
これまた厨房のスタッフ以外、全員にやらせる。そしてボクは全員を褒めた。
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次は配膳だ。とにかく料理を切らさないよう、リーダーに立ち回りを覚えさせる。
「ペペロンチーノの出来立てをお持ちしました!」
「三番テーブル片付けお願いします!」
「いらっしゃいませ!」
収納庫スキルをもつリーダーの役目は料理の追加と声かけだ。
実際は作ってあるスパゲッティを収納庫からだすのだから出来立てではないのだけど、これも雰囲気づくり。
誰だって残り物よりも、出来立て熱々を食べたいからね。
他のスタッフもテーブルの片付け、皿の補充、料理の追加など報連相も覚えてもらった。
よし完璧だ。
明日は十一時からのオープンだ。もちろんボクも陣頭指揮に立つ。
はい異世界シニアです。
どんな商売でも店の存在を知られていなければ、それは存在しないのと一緒。
宣伝が大事。
次回、異世界バイキング。レストラン改造計画再び親子丼。