サンドイッチ食べ放題(コーヒー付き)
結局、朝帰りになっちゃった。
ボクは神人こより。とつぜん異世界に飛ばされた中学三年生。母娘二人で切り盛りするレストラン"バイキング"の手伝いをして、二階に下宿させてもらっている。
昨日は冒険者ギルドの受付嬢ラミリアさんとデートして、そのまま彼女の家にお泊りしてしまった。
この世界の成人は十五歳。郷に行っては郷に従え。こちらではボクも立派な大人なのだ。
でも、やっちまったなぁ。
キィ。できるだけ音を立てずにレストランの裏口を開ける。
「あら。お早いお帰りで」
「!!」
「あ・・レミリアさん、おはようございます」
「おはようございます」
「こよりさん。外泊するなら連絡はしてください」
「ごめんなさい」
「わたしはともかく、エミリアはずっと心配していましたから」
「以後、気をつけます」
「顔を洗ってらっしゃい。朝ご飯にしましょう」
「はい!」
ドタタタタタタ!!
「お母さん!こより帰ってきた!?」
エミリアが泣き腫らした顔で階段を降りてくる。
「ごめんよエミリア」
「もう心配したんだから!」
きゅっと抱きしめる。悪いことをした。次からは気をつけよう。
スンスン。クンカクンカ。
あれ。なんか匂いを嗅がれてるぞ。
「女の匂いがする」
「え」
「ラミリアさんの匂いがする」
「え」
「浮気したの」
「え」
「正座」
「はい」
それから小一時間、エミリアの説教は続いた。さて森に狩りと採取へいくか。
「こよりさん。今夜はお仕置きですからね」
「はい」
レミリアさんも静かに怒ってらっしゃった。
「サンドイッチを作ります」
エミリアとレミリアさんに新たなメニューを提案する。
「サンドイッチって何?」
「パンで野菜やハム、チーズなどをはさんで食べるものだよ」
「美味しそうね」
「レミリアさん。こちらで手に入るパンの種類を教えてください」
「食パン、丸いパン、固いパンかしら」
「では食パンで行きましょう」
「あとコーヒーは贅沢品ですか」
「それほどでもないわ」
「ではコーヒーも飲み放題にします」
「サンドイッチは五種類だします」
「パンに挟む中身を変えるのね」
「そうです。まずは作ってみますね」
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
翌日のランチタイム。
「本日は五種類のサンドイッチが食べ放題!」
「コーヒー、スープ、サラダもお替り自由!」
「三時まで時間も無制限でお一人様、千九百ウェン!!」
「はい四名様、ご案内!!」
今日もすぐに満席になる。外には行列ができてきた。そろそろ時間制限も必要になるな。
席への案内、前払いの作業も考えると店員だって一人欲しい。
「お、これがサンドイッチか」
「おい、パンが白いぞ」
「耳をカットしたのか」
「パンの耳を揚げて砂糖がまぶしてあるぞ」
「ほんとだ。カリカリ甘くて美味しい!!」
サンドイッチは五種類並べた。どれも自信作だ。
・カツサンド
・玉子サンド
・野菜サンド
・白身魚のフライ
・フルーツサンド
カツサンドはとんかつ定食の時のカツを挟んだ。味付けはソース。玉子サンドはマヨネーズで味を調整。野菜サンドはレタス、チーズ、きゅうりでシャキシャキ感を出す。白身魚も塩で下味、衣をつけて油で揚げる。味付けのアクセントはタルタルソースだ。
ひとひねりしたのはフルーツサンド。デザートにもなるようにした。山盛りの生クリーム、三種類の果物、パンを置き、自分で作れるようにした。
こうすれば果物だけでも食べられるし、お客様もサンドイッチ作りを楽しめる。
生クリームを泡立てるのは大変なので、あらかじめ作っておいてエミリアのスキル「収納庫」に入れておく。こうすれば劣化しないし、いつでもすぐに取り出せる。
そう、このアイデアはケーキ・バイキングの店から拝借した。コーヒー、サンドイッチ、サラダ、スープなども同じようにストックしてある。
バイキングレストランでやってはいけないことがある。それは料理を切らしてしまうこと。たとえ何かが在庫切れしても、必ず別の料理を並べなければ店としての信用を失う。あえて多めに作っておくようにした。
残ったものはどうするって。ボクたちの夕飯に姿を変えるのさ。収納庫スキルさえあれば、いつまでもストックしておける。カツサンドのとんかつやサラダのレタスなども使い回しできた。
そう考えると収納庫スキルもちの人って便利だよね。きっとこの世界でも優遇されているのだろう。
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「ほらよ、コミリア。今日の飯だ」
暗い地下室。粗末なボロボロの服を着た少女の前に、硬いパンと冷えたスープが置かれる。
食べなければ死ぬ。そして盗みをしなければこの食事さえ与えてもらえない。ここは地獄だ。
事故で親がなくなったわたしを拾ったのは盗賊団。とうぜんわたしは盗みの仕事を手伝わされた。まだ幼いから手は出されていないが、それもあと数年でどうなるかわからない。
コミリアは収納庫から両親の形見を取り出す。
「お父さん、お母さん」
硬いパンを冷たいスープに浸して食べる。なにも味がしなかった。
はい異世界シニアです。
新キャラ登場の予感です。
次回、異世界バイキング。店員リクルート(盗賊団壊滅作戦)。