地獄の金曜日(プラス翌日)
グツグツグツ
鍋が煮立っている。匂いも凄いが色も凄い。まるで溶岩だ。
「これはまたスゴイとしかいいようがないな」
「はい。わたしの本気を見せてやるです」
興奮のあまり語尾が変になっているマイをボクは生温かい目でみる。人は好きなもののことになると、たまにおかしくなるよね。
ボクは神人こより。令和七年から異世界に飛ばされた推定十六歳だ。こちらに来てから日数を数えるのはやめた。
いまボクがいるのは、バイキングレストラン二号店「カレー大好き」の厨房。カレーマスターことシェフのマイと明日の準備をしている。
手元にあるチラシをみる。
- - -地獄の金曜日 - -
激辛カレーからの挑戦状。
本当に辛いカレーが食べたいアナタのための特別な金曜日。カレーマスターが本気で作る三種類のカレーが二時間食べ放題。
ふだんは一般のお客様や子供が食べれるよう辛くても中辛レベルで我慢しているマイ。彼女のストレス解消になると考えたイベントでもある。
よく言うじゃないか。たまに全力を出さないとイザというときに全力が出せなくなるって。スポーツカーに例えるなら、たまにエンジンを全開で回さないと回らなくなるみたいな。
「やってやるです」
「ヤッテヤルデス」
「殺ってやるです」
久しぶりに全力が出せるとあってマイのテンションは爆上がり。秘蔵のスパイスまで投入していた。たとえ金塊でも交換はしないと大切にしていたスパイスを惜しげもなく使っている。
ちなみに甘いものは大好物だけど、辛いものが苦手なボクは味見さえもパスさせてもらった。
明日は死人が出なければいいけれど。
「いらっしゃいませ!」
「本日は激辛デー!!」
「当店のカレーマスターが全力で作った激辛カレー三種類が食べ放題!!」
「二時間で千九百ウェン!」
「我こそはという方、ぜひ挑戦してください!!」
なんと驚いたことに行列ができていた。みんな、どれだけ激辛カレーに飢えていたのだろう。
「いつものは美味しいけれど、辛さが物足りなかったんだよ」
「思いっきり汗をかきにきたぜ」
「地獄とやらを見せてもらいにきた」
常連さんだけじゃない。ギルドでみかける冒険者のツワモノも何人か来ていた。
「三種類を食べたらブルーオーガとデートできると聞いてきました」
「うん、それ、デマだから」
誰だ。そんな危険があぶないデマを流す奴は。よくみると行列のなかに知った顔も何人かいる。
「こよりさん、ちーっす!」
「ジタンダとロンゲか。店はどうした」
「料理は余るほど作ってきました!」
「皿洗いは帰ってからします!」
「ほどほどにな」
「「サーイエッサー!!」」
冒険者ギルドの受付嬢ラミリアさんもいた。
「ラミリアさん、やめといたら」
「あら。わたし辛いの好きなのよ」
「ほどほどにね」
「ありがと」
まんぷく食堂のオーナーの娘のロミリアも来ていた。
「こより様!」
「ロミリアやめときな。辛いというよりも辛くなるよ」
「わたし痛いの、好きなんです!!」
少しひいた。まさかエムさんだったとは。楽しんでもらうことにした。
三号店のオーナーのミリアさんまでいるぞ。
「なにやってんすか、ミリアさん」
「ここのシーフードカレーを食べたけど、ほんと美味いんだよ」
「で、激辛を食べに来たと」
「おうよ」
「無理しないでくださいね」
もう知らん。自己責任で楽しんでもらうとしよう。
さあ地獄の金曜日の始まりだ。
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
わたしは冒険者ギルドの受付嬢ラミリア。実はカレーには目がない。今日も地獄の金曜日をレポートしよう。
お一人様で、はじめの方に入店することができた。
売り場には三種類の鍋が並んでいた。あとナンとご飯。サラダにスープもいつもどおり。
どれも蓋を開けると、匂いだけで辛いとわかるカレーだった。
色もまたスゴイ。緑、赤、黒だ。緑はグリーンカレー、赤は唐辛子だろう。黒はわからない。
感覚的に緑、赤、黒の順番で辛さがパワーアップするのだろう。
辛さを紛らわすために水だけでなく、低温殺菌牛乳も置いてあった。酪農王国から持ってきたな。
では緑色のグリーカレーからいただこう。パクリ。
甘い!?いつものグリーカレーよりも甘い。どうしたことだ。なにも辛くない。周囲を見渡すと誰もが不思議な顔をしていた。
その時だった。とつぜん辛さが後からやってきた。
「!!」
やられた。時間差でクる奴だ、これ。万年D級冒険者のジタンダが低温殺菌牛乳をがぶ飲みしている。
まだこれくらいなら大丈夫。次に溶岩みたいな真っ赤なカレーを口にする。
ぶわっ
全身の毛穴が広がった。これ辛いというよりも痛い。
ガタッ
冒険者ジタンダの弟のロンゲがカレー皿に顔を埋めていた。隣のジタンダも顔を真っ赤にしている。汗ダラダラよ。
「こんなのこより様のアイアンクローに比べたら屁ですわ!」
ロミリアが笑う。
なんか危ない娘がヤバい発言をしているが、聞かなかったことにする。なにやってんのよ、こよりくん。
魚の虜のライブキッチンでマグロの刺し身を渡してくれたシェフもいた。彼女は溶岩をまるで普通のカレーのように黙々と食べている。
「やはり美味い」
味なんてわかるのかしら。実はわかる。このカレーを作った人間は天才だ。なぜなら辛いのに食べられるから。ただ辛いだけではない。美味しいからスプーンが止まらない。
まさしく悪魔のカレーだった。
そしてラストは黒。悪魔の黒。味は異世界だった。これまた辛いのにスプーンが止まらない。
美味しい
美味しい
美味しい
気がついたら皿からカレーが消えていた。間違いなく辛い。そして迷うことなく美味い。
悪魔の黒カレーをおかわりしたら満腹になってしまった。大満足だ。次の金曜日も来るしかない。
ま、本当に地獄なのは明日なんだけどね。みんな忘れてるけど、辛いものを食べた翌日のトイレこそ地獄だということを。
はい異世界シニアです。
実は激辛カレーだいすこ。
次回、異世界バイキング。無題。




