カレーライス食べ放題(ナンもあるよ)
強く。そして美しい。
思わず見惚れてしまった。彼の名は冒険者の新規登録にきた神人こよりくん。
わたしは冒険者ギルドの受付嬢ラミリア。今年で二十歳になる。この世界では早婚が当たり前で、十五歳で多くの女が結婚・出産を経験する。
わたしは仕事が面白くて、気づいたらいつのまにか二十歳になっていた。そのせいで処女のまま。若い娘たちにはオバサンと呼ばれてもしかたない年齢だ。
周囲に粗野な冒険者ばかりしかいなかったこともある。焦りはじめていた。そんな時に出会ったのが彼だ。
まあメイド服をきて男性に見えなかったのは少し。いやかなり微妙だったけれど。女装趣味とか男性が好きだったりするのだろうか。
なんにしても冒険者としての実力はある。なによりもかわいい。あんな冒険者はいままで見たことがない。きっと王都にもいないだろう。
なんとかお近づきになりたい。結婚は無理だとしても、彼とお付き合いがしたい。
暇があると、彼をどうやったら堕とせるか、抱いてもらえるか、グルグルと頭のなかで考えていた。
昼休みに彼がウェイトレスをするエミリアちゃんちのバイキングに行こうかしら。
毎日通ったら太りそうだけどね。
「新メニューを考えます」
エミリアとレミリアさんを前にボクは宣言する。
ボクは神人こより。このバイキングレストランを助けるかわりに二階に居候させてもらっている。いつのまにか夜のお世話係りになっている気がするけれど。
「こより。毎日ポークステーキじゃダメなの」
「いいところに気が付いたね。でも毎日ポークステーキじゃ飽きるでしょ」
「そうね。せめて一週間に一度はメニューをすべて変更したいわね」
お店である以上、お客様に飽きられてはいけない。どんどん足が遠くなってきてもらえなくなる。バイキングレストランの場合、飽きられないためにすべきことは新メニューの開発と投入だ。
「カレーって何種類くらい作れるかな」
「辛いもの、普通の辛さ、肉ゴロゴロ入り、ひき肉入り、野菜入りとかってこと」
「ルーを変えるなら四種類くらいかしら」
「四種類あれば飽きられないな」
「残るサイドメニューはご飯と漬物。スープ。レタスのサラダかな」
「いいんじゃない」
「何か目新しいもの。カレーにあうものが一つ欲しいな」
「!!」
ひらめいた。ナンを出そう。トロトロした水分が多めのカレーならナンがぴったりだぞ。
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
翌日の午前中、エミリアといっしょに山に行く。そろそろオークの肉が心もとなくなってきたのだ。
さすがにオーク相手とはいえ、そうそう不意打ちはできない。武器屋でボク専用の武器を作ってもらった。
攻撃する武器としても。相手の攻撃を受け止める防具にもなる一石二鳥の武器だ。
それはトンファー。
少し山の奥にいると、はぐれオークをみつけた。周囲に仲間がいないことを確認し、エミリアには下がってもらう。
スンスン
オークは鼻がいい。しまった、ここは風上か。こちらの存在が気づかれてしまったぞ。
「ブモオオオオオオオオオオオオオ!!!」
こん棒を振りかざしてボクのほうに向かってきた。仕方ない、やるか。トンファーを構える。
オークは力が強い。大人の男性でも力負けする。でもそれは真正面から戦った場合。ボクはそんな無謀なことはしない。
はぐれオークはボクの脳天めがけてこん棒を振り下ろす。トンファーを握った右手をすっと右上にあげる。
ガッ
まっすぐ落ちてくる力は受け流せばいい。わざわざ受け止める必要はない。こん棒は斜めにあげたトンファーによって滑り、地面につきささった。
「ブモッ」
あらら自分の力で武器を使えなくしてやんの。すぐ右横に豚の頭がある。体を右回転させ、左手のトンファーをオークの後頭部に叩き込んだ。ゴスと鈍い音がした。
「ギャッ」
ズズーン。さすがに鉄製のトンファーは威力があるな。
「こより!」
「エミリア。オークを収納庫にしまってくれる」
「うん。お疲れさま」
エミリアがもじもじしている。トイレか。するといきなり抱きついてきた。なんだイチャコラしたかったんだ。
ちゅ
抱きしめてキスをする。
「まだ時間はあるよね」
「うん」
帰るまえにもう一運動していこうか。
■ ■ ■ ■ ■ ■
「今日はカレー四種類が食べ放題だよ!」
「サラダ、スープ、ご飯がお代わり自由!」
「三時まで時間無制限でひとり千九百ウェン!!」
「はい二名様ご案内!!」
ギルドの受付嬢のラミリアさんがやってくる。
「こよりくん。こんにちは」
「ラミリアさん、お疲れ様です」
「大盛況じゃない」
「おかげさまで」
「ねえ、こんど二人で食事でもいかない」
「いいですね。ボクおごりますよ」
「じゃ次にギルド来た時に打ち合わせしましょ」
「わかりました」
「お一人様、ご案内!!」
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
よしデートの約束はできた。わたしはルンルンしながら支払いを入口ですませて店内に入る。
ふわっとカレーのいい匂いが充満している。
きゅるるるるるる
お腹がすいてきた。へえ、四種類のカレーね。ふつうのお店は一種類で千ウェンくらいするから四種類で千九百ウェンはお得だ。
さらにご飯もサラダも食べ放題。あらご飯の横に並んでいる白くて細長いパンみたいなものは何かしら。
ナン。変わった名前だこと。カレーを付けて食べるんだ。面白いことを考えるわね。小皿にカレー四種類、ナンを二枚ほどとってカウンターに座る。
「いただきます」
ナンを適当な大きさにちぎってカレーに浸して口に入れる。少し焦げたナンのふわふわした触感と香ばしさが面白い。次は違うカレーで試してみよう。美味しい。このカレーはご飯があうかもしれない。
何度かナンとご飯とカレーをお代わりして楽しむ。男性よりもたくさん食べられない女性にとって、いろいろな種類を少量たのしめるのは助かる。
夢中で食べているうちにギルドの昼休みが終わる時間が近くなってしまった。
「こよりくん。ごちそうさま」
「明日、ギルド行きますね」
「楽しみに待っているわ」
さあ明日を楽しみに待ちながら午後の仕事も頑張りますか。
はい異世界シニアです。
異世界でもこよりくんはモテモテハーレムエンドです。
次回、異世界バイキング。ケーキバイキング・デート。