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お茶会の後すぐにセレナの元に一通の手紙が届く。
送り主は、彼女にとって初めての友達ーーレミリア。
すぐに二人の文通が始まった。
「セレナお嬢様、なんだか嬉しそうですね。何かいい事でもありました?」
セレナにお茶を準備しながらミレッタが聞く。
「レミーのお手紙にお家へ遊びに来ないかって」
「まぁ!それはよかったですね!」
待機していたマルセナもセレナの言葉に笑顔で喜んだ。
「えぇ、お友達……が出来て嬉しいわ」
照れくさそうに笑うセレナに2人は顔を見合わせ微笑み、優しく暖かい空気が3人を包んだ。
コン、コン、コン。
そんなほんわかと柔らかい空気の中に扉をノックする無機質な音が響いた。
「セレナ様、私です」
扉の向こうから聞こえてきたのはアレスの声だった。
セレナは扉の方を向きながら返事をした。
「どうぞ」
その声を聞いてアレスがゆっくりと扉を開けて部屋に入って来た。
「セレナ様、ヴェルシエル殿下からお手紙が届いております」
彼はシエルからの手紙をセレナに渡す。
あのお茶会の事件から数日、レミリアだけでなくシエルからも手紙が届き彼ともやり取りをしていた。
「ありがとう」
セレナはアレスから手紙を受け取り中身を確認する。
いつもと変わらないありふれた世間話。
ーーのはずだった。
しかし、今回届いた手紙は少し違った。
そこに書かれているある人物の名前がセレナの目に入る。
「……アルディア……様」
彼女の背中には冷たい汗が流れる。
ゴクリと喉を鳴らして思わずその名前が口から漏れていた。
「アルディア様?確かその名前は王宮騎士団団長では?」
彼女の漏れた言葉にアレスは眉間に眉を寄せて少し不思議そうに首を傾げた。
(……前回お会いした時は魔獣騒ぎであまり気にしていなかったけど……改めて彼女の名前を目にすると、体が強張る……)
セレナは小さく震える手に力を入れると手のひらは汗で湿っていた。
それほどまでに、アルディアの名前はセレナに恐怖を与える。
(……繰り返したあの処刑台……そこに私を必ず連れて行くのが、彼女だった……)
蘇る98回のあの断頭台。
どんなことが起きても必ずアルディアがセレナを拘束し、断頭台まで導く役目をしていたのだ。
彼女に何度も掴まれた腕があの時の痛みを覚えているかのように腕を這い回るような気がしてセレナは額に冷や汗を流す。
(……聞こえるはずないのに……あの階段を上がる鉄の音まで耳を刺す……)
小さく震えるセレナを心配してマルセナが彼女の前に跪き額を伝う汗を優しく拭く。
「お嬢様?大丈夫ですか?」
あの瞬間が頭を巡っているセレナには彼女の声が聞こえていない。
どんどん呼吸が速くなり息苦しくなっていくセレナ。
落ち着くために四つ数え息を吸う。
今度は八つ数えながら息を吐いた。
(分かってる……あの時のアルディア様は自分の使命を全うしただけ……)
迫り上がってくる恐怖を拭うようにセレナは体に力を込める。
(……この先の未来を変えるためにも彼女を怖がっていてはダメ……ちゃんと向き合って話しをしないと……)
目を瞑り俯き冷や汗をかいて何も話さなくなってしまった彼女にミレッタもマルセナと同じようにセレナの前に座って慌てたように声をかけて少しだけ肩を揺らした。
「セレナお嬢様?大丈夫ですか?」
ミレッタの焦りの声と揺れる体にセレナは我に返り顔を上げる。
目に入ったのは眉を寄せて自分を心配げに見つめる三人だった。




