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楽しそうに話をしているセレナにアリシアは睨みつけながら彼女を呼んだ。
「お姉様」
彼女の呼ぶ声にセレナが振り返った瞬間ーー。
彼女たちの後ろからけたたましい雄叫びが響き渡る。
「な、何?」
「キャーッ!」
体が吹き飛ばされそうなほどの暴風が吹き荒れる中、セレナはハッとして後ろを振り向く。
振り向いた先に見えたのは会場のど真ん中に佇む虎のような姿の黒い影。
(そんな……ついに王都にまで魔物が現れてしまったっていうの!)
辺りからは叫び声が聞こえる。
「セレナお嬢様!」
セレナの前に走り込んでくるユリネスとイレイナ。
他の令嬢たちの元にも護衛騎士たちが助けに走っているのが目に入る。
しかし、会場は初めての魔物に混乱しいた。
(このままでは怪我人が出てしまうわ)
セレナはギュッと拳を握って立ち上がる。
「ユリネス!貴方は魔物の近くの騎士たちをまとめて魔物を惹きつけて、イレイナ貴女は残りの騎士たちとご令嬢方をあそこの木の下に誘導して!」
セレナの言葉に二人は頷いて走り出す。
ユリネスは的確に騎士たちに指示を出し魔物を引きつけて攻撃をする。
イレイナは残った騎士たちとバラけてしまっているご令嬢を誘導して魔物から離れた木の下へ向かう。
「私たちもあそこへ向かいましょう」
セレナは震えるマリアたちを立たせて木の下へ一緒に走った。
チラッとユリネスたちに視線を映すセレナ。
(あのユリネスが苦戦している……)
そのことに、セレナはゆっくりと不安が押し寄せて来た。
「セレナお嬢様、全員の避難が完了しました」
イレイナの言葉を聞いてセレナは少しだけ肩を揺らす。
(今はとにかく、他のご令嬢方を守らなければ……)
セレナは結界魔法を発動させる。
「遮断結界“セクルディア“」
馬車の時とは違い丸く膜を作り中にいる人を守る。
「イレイナ、こっちは大丈夫。だから、ユリネスたちに加勢しに行って!」
「し、しかし」
いくら結界魔法があるからとは言ってもぜったいに安全とは限らない。
イレイナはセレナの傍を離れてユリネスの加勢に行くのを躊躇う。
しかし、次の瞬間大きな爆破音とともにユリネスたちがいた場所が吹き飛んだ。
「ユ、ユリネス!」
周りからは令嬢たちのつんざくような叫び声と怯えて涙する声が響く。
(ユリネスは大丈夫なの……砂埃が酷すぎて前が、見えない……)
ユリネスの安否が分からない事への不安、響く令嬢たちの鳴き声にセレナも手が震え始める。
(どうしたらいいの……このままでは彼女たちを守りきれない……)
セレナは唇を噛んで下を向く。
「セレナ様、私たちどうなるのでしょう」
そんなセレナの手に少し不安そうにレミリアが手を重ねる。
セレナは顔を上げて彼女を見つめた。
(はじめて魔物を見た彼女たちはもっと怖いはず……)
自分も不安と恐怖で震えるその体と気持ちにグッと堪え、レミリア嬢の手を優しく握り返す。
「大丈夫、きっと大丈夫よ」
優しくでも力強いセレナの姿にレミリアは強く惹かれた。
その瞬間ーー。
ブワッ!
突風が吹き荒れ砂埃を巻き上げられていく。
(こ、今度は何!)
開けていく視界の先に見えたのはーー。




