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(アリーはみんなに愛されて幸せだったはずなのに……どうして、私を悪女に……)
セレナは机の下でグッと拳を握る。
(まだ理由は分からないけど……今回は好きにはさせない。でも、今は慎重に行動しないと……このまま前回みたいに悪女ましぐらになるわけにはいかないわ)
セレナはアリシアにニッコリ笑って見せた。
「ごめんなさい、アリー。実は先に家を出てあのお土産を買いに行っていたの」
「まぁ!公爵令嬢であるお姉様がわざわざ!」
「えぇ、やっぱり初めて参加するパーティーだし、主催者はナタリー嬢だから丁寧にご挨拶しなくてはと思って」
「そ、そうよねさすがはお姉様だわ」
笑って返すセレナにアリーは少し顔を引き攣らせはじめた。
「行き違いになったのは本当にごめんなさいね、アリーの侍女に声をかけたのだけど、伝わっていなかったみたい」
セレナが今度は困ったようにそう返すとアリシアは目を見開いてこちらを見た。
「そ、そうでしたの」
もちろん、全くのウソだ。
しかし、アリシアはそう言うしかなかった。
ここでこれ以上セレナを責め立ててしまえば、今度は自分が悪く見えてしまうのが分かっているからだ。
アリシアは悔しげに唇を噛み締めていた。
「そ、そうですわアリシア様!今日のドレスも素敵ですわね、そのドレスは今人気のブランド店ト・カロンのでわ?」
セレナたちのやり取りを黙ってみていたサラがアリシアの顔を見て慌てて彼女のご機嫌を取る。
「まぁ、本当ですわね!しかも新作でわなくて?」
マリアも乗っかるようにそう言ってアリシアはさっきまで悔しそうな顔をしていたが、ニコニコと嬉しそうに三人で話しはじめた。
セレナはその様子を見てから小さくため息を吐いた。
(ふぅ……まだこれから先は長いけど、とりあえず今回はドローに持ち込めたかしら?)
セレナは紅茶を一口飲み、苦笑いを漏らす。
(今はとにかく、アリーに私が反撃することを見せれただけでも十分かな)
セレナがそう思っていると横にいたレミリアが話しかけてきた。
「セレナリア様とアリシア様は双子なんですよね?」
「えっ、あ、そうですわ」
レミリアは紅茶を美しい所作で飲むセレナと、マナーを気にせず楽しそうに話すアリシアを交互にみてからクスリと笑いセレナの方を向いた。
「失礼かもしれませんが、あまり似ておられないんですね」
知っているのか知らないのか、レミリアは何かを感じ取ったかのようにアリシアを見ていた。
「そう、ですね……姿も似ていませんが双子なのに魔力量も天と地の差ですから」
セレナが自傷的に笑ってアリシアを見るとレミリアは不思議そうに瞬きを繰り返し、首を傾げた。
「決してそういう意味で申し上げたわけではありませんわ。セレナリア様が言われたように確かに、姿もあまり似ておられないと思いましたが魔力量の事は考えておりませんでした」
レミリアはふわりと優しく微笑みを浮かべセレナを見た。
「私が言いたかったのは性格の話です」
「性格、ですか?」
「はい、セレナリア様はとっても聡明でお優し方に見えました」
レミリアの言葉にセレナは驚いた。
アレスやマルセナたち以外の関わった人からそんな事を言われたのは、はじめてだったからだ。
いつの間にか悪女と呼ばれるようになってしまった彼女の本当の姿など誰も見ることなどなかった。
それなのに。
(彼女は……レミリア嬢は本当の私を見てくれた……)
セレナは嬉しくて泣きたい気持ちをグッと堪えて拳を握る。
「ありがとう、ございます」
セレナが小さくそれだけ呟くとレミリア嬢は少し目を見開いて驚いたような顔をしてからすぐに、優しく笑った。
「もしセレナリア様が良ければなんですが、私たちお友達になりませんか?」
レミリアの言葉にセレナは戸惑い困ったように笑って「もちろんです」と返した。
(私……ちゃんと笑えてるかしら。こんな時……どんな顔をしたらいいのか、分からないわ)
友達。
セレナにとっては前回も含めてはじめての事。
その事に戸惑いながらもじんわりと嬉しさが心に広がっていくのが分かった。
戸惑うセレナにレミリアはもう一度優しく微笑み返した。
「でしたら、私のことはレミーと呼んでください」
「で……でわ、私のことはセレナと……それからもし良ければ敬語も、要らないわ」
「じゃあ、セレナって呼ぶわね」
二人は楽しそうに笑い合った。
初めて出来た友達に嬉しくてセレナは、気づいていなかった。
彼女……。
アリシアが自分を睨み付けていることに。




