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アリシアは少し奥にあるテーブルに三人のご令嬢と座っていた。
セレナがゆっくりと近づくとアリシアが彼女に気づきニッコリと笑って見せた。
「ご機嫌よう、お姉様」
まるで何事もなかったかのように微笑む彼女にセレナは少し不気味さを感じた。
しかし、怯んでいるわけにはいかない。
セレナは出来るだけ優しく微笑んだ。
「ご機嫌よう、アリー、少しいいかしら?」
「どうかしたの?」
今ここでアリシアが先に出てしまった事を指摘してしまうと、おそらくセレナは“妹を虐める姉“になってしまう。
それでは、前回と変わらない。
「良かったら私も一緒にお話してもいいかしら?」
セレナはまず一緒に話をする機会を作ることにした。
「まぁ!いいわよね、みなさん」
アリシアが一緒に座っていた三人に確認すると彼女たちは少し気まずそうに頷いてみせる。
参加者リストはアレスが準備してくれて確認済み。
アリシアの左隣に座っている赤い髪に青い目をしているのがマリア・ノーチェ伯爵令嬢。
そして右隣の茶色の髪に黄緑の目をしているのがサラ・ローゼル伯爵令嬢。
セレナの記憶では、この二人は前回の時もナタリー嬢と一緒にアリシアの傍にいたご令嬢だ。
そしてセレナの右隣に座っている黒髪の茶色の目をしている彼女はレミリア・アイザック侯爵令嬢。
(レミリア嬢……彼女は確か学園にいた時はアリーたちと一緒にはいなかった……むしろ距離をとってずっと傍観されていたはず)
セレナはチラッとレミリアを横目で見た。
(今は一緒にいるということは学園で何かあったのかしら?)
「お姉様、このお菓子美味しいから食べてみて」
セレナがレミリアのことを考えているとアリシアがクッキーを差し出してきた。
「ありがとう」
笑顔で一枚手に取り口にするセレナ。
アリシアの隣にいるマリアとサラはソワソワと二人のやり取りを見ていた。
レミリアはあまり気にしていない様子で紅茶を嗜んでいる。
「それより、アリー?私聞きたいことがあるのだけれど」
「そう言えばお姉様、朝はどうされたの?私、お姉様をずっと待っていたのに時間になっても来ないから、パーティーに遅刻しては失礼になると思って呼びに行ったのに部屋から出て来ないし、仕方ないからアレスに言って先に出てしまったのだけど」
アリシアはセレナの言葉を遮り困ったような素振りをみせてそう言った。
全くのウソだ。
やっぱり、前回からずっと不思議に思っていた彼女の動き……。
アリシア。
彼女がセレナを“悪女“に仕立て上げていた根源だ。
前回までのセレナはずっとナタリーだと思っていた。
けれど彼女の知り得ないような噂まで流れていておかしいとは思っていた。
でも、きっと前の彼女はアリシアをーー。
実の妹を信じたかったのだろう。
もちろん彼女がそんな事をする理由もわからなかった。




