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「アレス、もしかしてノヴァ様に会ったことがあるの?」
セレナはアレスの言葉が引っかかり魔導書から顔を上げて疑問を投げかける。彼は微かに肩を揺らした。
「……いえ、彼の論文を拝見したことがあっただけです。それよりも今はこっちに集中してください」
彼の横顔はいつもと変わらず無表情で何を考えているか分からなかった。
「そう、なのね」
それに、なんだかあまり聞いてほしくなさそうなアレスにセレナは視線を外す。
「いいですか?光属性は基本は光を灯す、闇を払うなどの魔法が多いですから光が輝きを放つイメージをしてはどうでしょうか?」
「輝きを放つ?」
セレナはアレスの言葉に首を傾げる。
「はい、小さな光をまずイメージして、その光に同じような粒を集約して一つの光にするイメージをして輝かせみたらどうでしょう?」
彼のわかりやすい説明にセレナは感心した。
「アレス、すごいわね、教師になれそうね」
彼女がそう言うとアレスは怪訝そうにセレナの方を向いた。
「貴方に手がかかるのに他の方まで見ている時間なんて私にはありませんよ」
彼が魔導書を覗くのに同じ高さにあった目線が絡む。
「……本当に貴方って失礼ね、私はそんなに手のかかる生徒じゃありません」
静かに絡んだ目線にセレナは一瞬息を呑み、視線を逸らした。
急に視線を逸らした事でセレナの髪が流れる。
アレスはクスリと笑いながら、そっと乱れた髪に手を伸ばしーー少し躊躇い、それから指先でほんのわずかに整えた。
彼の指先が触れた瞬間、セレナは僅かに肩を揺らす。
「……では、私が教えて差し上げたのでもう光魔法、使えますね」
彼の動きにセレナは少しの驚きと気恥ずかしさを感じた。
「そうね、でも今日はもう遅いからまた明日挑戦してみるわ」
彼女は逸らした視線を戻す事なく少し耳を赤くして彼に返事を返した。
「そうですね、それがいいかと思います。では、おやすみなさいませ、セレナ様」
アレスは机の上にあるカップを片付けて銀のトレイにのせる。
「おやすみ、アレス」
セレナは彼の方を向かずに返事を返す。
彼女の返事を聞いてアレスは静かに一礼し部屋を出た。
一人になり部屋には静けさが広がる。
セレナはベッドに向かわずゆっくりと机に突っ伏し、一つ息を吐いた。
彼女にとってアレスは兄のような存在だ。
どんな時も彼女を信じてそばにいてくれた彼にいつも感謝している。
(なんだか、顔が熱い……)
彼の存在はセレナにとって家族のようだったはずなのに、なせ」こそばゆさを感じた。
でも、今の彼も変わらずそばに居てくれているはずなのに、以前よりも少しだけ彼との距離が遠く感じた気がした。




