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夕食が終わりセレナは自室でアレスに紅茶を淹れてもらっていた。
マルセナたちは別の仕事で席を外している、セレナは昼間のお茶会でのことを思い出す。
母との変わらない距離、視線は変わることなく無条件にアリシアだけを映していた。
前回は気づかなかったけれど今回はそれがーー少し異質に思えるくらいの執着に見えた。
そして、アリシアのあの瞳の謎。
彼女のあの瞳に気づいているのはまるで、セレナ一人のようだった。
セレナは、ふと彼女の侍女であるマリエッタのことを思い出した。
(マルセナやミレッタにそれとなく探りを入れてもらうのもいいかも)
今後の作戦を考えていたセレナにアレスが本を片手に近づいて来る。
「セレナ様、アルフィン様からお借りした光属性魔法の魔導書です」
アレスは手にしていた本をセレナに差し出す。
彼女は、小さく頷き本を受け取る。
「ありがとう、アレス」
先日、魔塔に行った時にノヴァに借りたのだ。セレナはページをペラペラとめくりながら呟く。
「ノヴァ様と練習したときは出来なかったけど、魔法を発動するには他の五属性とは違って、何か条件があるのかしら?」
横に控えていたアレスが一歩踏み出し、セレナの顔の横から本を覗き込む。
「少し見せていただいても?」
「えぇ、構わないわよ」
返事を返すと彼の顔が更に本に近づく、それは同時にセレナの顔にも近づいた。
今更、彼に対して緊張するような間柄ではない。
それでも、ふと横目に見えた彼の横顔の端正さにセレナは一瞬目を奪われる。
アレスはセレナが五歳のころに父が連れて来た、孤児だった。
セレナの家に来た頃の彼は、ただでさえ切れ長の目を更に鋭くさせこちらを睨んでいた。
彼がどこから来て、それまでの間どう過ごしていたかは知らなかったがセレナは彼を優しく受け入れ歩み寄った。
ーー『大丈夫よ、アレス!私が居るわ、貴方が安心して過ごせる国をつくから、ずっと傍で見守っていてね』
なんて優しい光を放つ人なのだろう。
アレスはそう思った。ーー
それからずっと、彼は彼女の傍らにいる。
「私が扱う水属性は基本的に大気中にある水分を圧縮して使うイメージです、このように」
アレスは大気中にある水分を圧縮し小さな水の玉を作り出してピンッと指で弾く。
「イメージするなら土魔法の方が分かりやすいかもしれないですね」
セレナはなるほどと、小さく頷きながら聞く。
「土を動かす、あるいは固めるーーそんなイメージをし、魔法を発動させるので」
魔法の説明をしてくれているアレスの所作は、美しく気品が漂い、魔導書をめくる姿は貴族と言われても分からないほど彼の動きにはまったく無駄がない。
「アレスの説明はノヴァ様の説明よりかなり分かりやすいわ、でも光魔法はイメージしにくいわね」
セレナはアレスから視線を逸らしもう一度、魔導書に目を映す。
「そうですね、ノヴァ様はイメージをすると言うよりも魔法そのものを構築し作り出す思考で発動するタイプですからね、そもそも教えを乞うには適さない人物ですね」
確かに、ノヴァはとても頭がいい分、セレナが魔法の構築や自分の説明を理解出来ないことが理解できないとゆう顔をしていた。
それよりも、アレスの言葉はまるでノヴァを知っているようだった。




