19(2)
前の人生の時も10歳前後のアリーは私の後ろをよくついてきて遊ぶようにせがんだ。
私は妃教育で忙しかったけど、いつも彼女に絆されて一緒に遊んでいた。
かくれんぼや鬼ごっこ。
確かに今の私の雰囲気では想像しづらいくらい、アリーに付き合って活発に動いていたかもしれない。
でもーー学園に入ってからの彼女はなぜか私から離れて行った。
アリーとは仲がいい時期の方が長かったはずなのに、あの処刑の回数のほうが長くなりすぎて彼女とこうして話している事が今も異様なほどの違和感が拭えない。
「そう言えばセレナ、お父様が褒めていたわよ。領地の運営などの話をよく理解して話ができるって、よく勉強しているわね」
「あ、ありがとうございます」
お母様に急に話しかけられ、私は肩を大きく揺らした。
「今年の収穫祭の話もしたのでしょ」
「はい、今年は災害があったので例年よりも少しだけ規模を縮小して行う事になるそうです」
前の時はその災害のせいで作物も領地も今回以上の被害があったから収穫祭そのものが出来なかった。
領地の話でお母様となごやかに話せていることに落ち着かない気持ちになっていく。
しかし私たちの会話に入れないアリーが拗ねたように口を膨らませて文句を口にする。
「お母様、私何を話いるかわからないわ、もっと楽しい話がしたい」
「そう、ね。アリーには難しいわよね。どんなお話しがいいかしら?」
アリーはいつもこうやって私の話を遮ってしまう。そのせいで前の時には、お父様やお母様と話ができなくなってしまっていた。
でも、今回はそうはならない。
変えると決めたから、この先の未来を地獄にしないため、静かに生きるために私自身も変わって今度こそアリーと向き合うためにしっかりと彼女の目を見据えた。
「でも、アリー?貴方もそろそろ領地のことだけじゃなくて、マナーや魔法を勉強をした方がいいと思うわ、13歳には王立魔法学園に入学するんだし必要ことよ」
彼女の今後の為にも、私の為にもしっかりと嗜めた瞬間、急に空気が沈んでいき冷たい風が私たちの間に吹き抜ける。
この感覚はあのループの時から何度も味わってきたから知っている。
アリーの瞳を恐る恐る見るとやっぱりあの瞳をしていた。
ぞわりと背中を撫でる汗、心臓が痛いくらい早くなる。
最近は見ていなかったその瞳が私を捉えている。記憶にこびりついた彼女のあの瞳に体が強張って動かなくなってしまう。
「アリー、大丈夫よ……貴方は愛らしいから何も心配いらないわ」
お母様はアリーの手に優しく手を重ねて握り、反対の手で彼女の頭をゆっくりと撫でた。
「貴女は……今のままで充分なのよ、ただ元気で笑って動いてくれていたら、それだけで、充分なの」
彼女のことを優しく守るお母様の目には涙が滲んでいるように見えた。
その瞳に、私は映らない。
アリーの瞳に恐怖を抱きながらお母様の異常な過保護を目の当たりにして私はグッと拳を握る。
怖い。
でもこのまま彼女の瞳から逃げ続けるわけにはいかない。
未来を変えて私の運命を覆すには彼女とちゃんと向き合い、この真っ黒な瞳の理由も知らなければいけない。
そのために、私はお母様に食い下がった。




