17 光属性(2)
「ごめんなさい、聞かれたくない事もあるわよね日記の事は自分で調べてみるわ、本来の目的である光属性の魔法をいくつか教えて欲しいのだけど」
私がそう言うとメガネ越しでも分かるくらい瞬きを繰り返して不思議そうに彼は言った。
「……その魔力量で?」
……この皮肉たっぷりの言い方、なんだか誰かに似ている。
懐かしくてどこか憎めない言い方に私は無言でアルフィン殿を睨んだ。
「ノ、ノヴァ様!そんな意地悪言わなくていいじゃないっスか!魔力量はある程度なら訓練すれば上がるんっスから」
私たちの様子を見ていたペルトニーが慌ててフォローをしてくれた。
「いいのよ、ペルトニー、ありがとう」
困ったように笑うとペルトニーも苦笑いを返して、そんな私たちのやり取りを観察していたアルフィン殿は少し可笑しそうに笑う。
「冗談ですよ、その魔力量で出来る初歩的な魔法から教えましょう」
「……お願いするわ」
クスクスと少し楽しそうに笑う彼のその横顔もなんだか、似ている彼を思い出させた。
「ペルトニーくん、右側の本棚の上から三段目の左側に光属性魔法に関する本があったはずだから持ってきて」
「はいっス!」
これだけ散らばっているのにどこになんの本があるか把握しているなんてすごいと思っていた
ら案の定、お目当ての本は見つからず私も一緒に探した。
やっと探していた本を見つけアルフィン殿がページを開く。
「では、始めましょうか」
「え、ここでするの?」
魔導書を机の上に置きペラペラとページを開くアルファ殿の言葉に戸惑い、思わず声を上げる。
攻撃魔法じゃない魔法を練習するにしても、こんな部屋の中で魔法を使って大丈夫なのだろうか。
しかも、今いる部屋には貴重な魔導書や大事な論文があるんじゃないの?
不安な気持ちで彼を見ると彼は首を傾げてキョトンとしていた。
「貴女の魔力量なら暴発することもないでしょうし、ましてや初日から使いこなして魔法が発動することもないと思うので、ここで十分です」
彼は一瞬だけ私を見てそう言ったが、すぐに魔導書に目線を戻してページをめくる。
ここに来て数時間、彼のこの態度に慣れた自分に今までの経験を経て少し精神的に大人になっているのだと思った。
ペルトニーは彼と私を交互に見ながらまた慌てていたがもはや今は、アルフィン殿の言葉や態度など気にするものか。
そう思いながら私は少しだけ拳を握りたいのをありったけの笑みを保ち微笑んで見せた。
「こ、公女様、怒っておられるっスか?」
「いいえ、ペルトニー。もう慣れたから大丈夫よ」
焦るペルトニーに更にニッコリと笑って返すと聞こえるか聞こえないかくらいの呟きで「か、顔が怖いっス」と言っていたような気がした。
「じゃあまずは初歩的な魔法で、小さな光を出す魔法です。詠唱が“小さな輝き、フミリス・イルミナティオ“分かりましたか?では、やってみてください」
私はアルフィン殿に小さく頷き椅子から立ち上がり手を前に出す。
深く息を吸って吐く。
気持ちを落ち着かせてからゆっくりと詠唱する。
「小さな輝き“フミリス・イルミナティオ“」
部屋には私の詠唱だけが木霊するように響いた。何も起こる気配はない。
「何も、起こらないっスね」
「まぁ、想定内ですね」
私はひどく落胆していたがアルフィン殿は当たり前だというようにメガネを上げながら言った。
「今の貴女の魔力量ではそう簡単には発動しないでしょうけど、とりあえず少し続けてみましょう」
「分かったわ」
アルフィン殿にそう言われて私は詠唱を繰り返しみたが、光魔法の感覚がまったく掴めない。
まるで、自分の中に光属性を感じない不思議な感覚を感じた。
そして、やっぱり何も起こることなく私の声だけが部屋の中に響いていた。




