14 はじめての本音(1)
マルセナたちが紅茶やお菓子を庭に準備してくれて私たちは庭でお茶会を始めた。
前回の人生にこんな事はなかった。
何故なら殿下が家に来ること自体ほとんどなかったし、私も王宮にあまり行かなかった。
お互い忙しいからと避けていた気がする。
でも、今は未来を変えてるからだけじゃなくて何かが流れを少しずつ変えている。
何がかは、まだ分からないけど目の前に広がる光景も変わっている一つの現実だ。
それに、お父様も怪我をすることなく明日、領地から戻られる。
お父様が帰ってきたら魔塔への訪問許可が降りているか確認しましょう。
紅茶を一口飲む、気まずい。
目の前にいる二人を交互に視線に映す。
私の気持ちをよそにアリーは殿下の隣を陣取り、楽しそうに喋っている。
新しいドレスを買っただとか、今令嬢から人気の可愛らしい雑貨が置いてあるお店に行ってみたいだとか、これといって彼が興味ありそうな話ではない。
だからなのか、彼はその話を聞いているのか聞いていないのか分からないような相槌を返したかと思うと、私に質問をしてくる、その質問に私は苦笑いで答え、それをアリーが少し睨んだように見てくるのを何度も繰り返すという何とも言えない状況。
「そう言えばセレナ、今年の“アネモネ“畑も綺麗だった?」
アネモネ畑?
もしかして、庭に広がるアネモネのことかしら?
私は不思議に思いながらにこやかに答える。
「はい、とっても綺麗に咲いていました」
「そう、それはよかった。君が1番好きな花だからね」
彼は優しく嬉しそうにふわりと笑った。
私はこの笑顔を見たことがある。
ーー『シエル!私、シエルに貰ったアネモネの花が1番好きよ、シエルみたいに強くて優しい雰囲気が大好きなの!』
私はそう言って真っ赤なアネモネを一輪手にする。
『本当に?じゃあ、僕が毎年1番近くで見れるようにしてあげるね!』
小さい殿下は頬を少し赤く染め嬉しそうにふわりと笑った。
『本当!ありがとう、シエル』
喜ぶ私は彼の手を握ったーー
そうだ。そうだった。
あのアネモネは彼が私の為にと植えてくれた花だ。
あれは……8歳の誕生日に。
なぜ、忘れていたのだろうか?
ズキズキと刺すような痛みが急に頭を襲う。
痛い、頭が割れそう。
「セレナ?大丈夫かい」
大丈夫ですと声を出したいのに頭の痛みが強過ぎて言葉がでない。
8歳前後の事を思い出そうとすると霧がかかったように思い出せない。
マルセナやミレッタの心配する声が遠くに聞こえる。頭を抑えているとユリネスが私の肩に触れた。
「お嬢様!大丈夫ですが?ちょっと失礼します」
そう言って彼が私を抱えようとしたら殿下が彼の腕を掴んだ。
「僕が運ぶよ」
その声はとても低く少しだけ怒っているように聞こえた。
「ッ!かしこまりました」
11歳とは思えないほどの威圧感にユリネスはサッと後ろに下がり跪く。
殿下が私を横抱きに抱えたことによって、ふわりと浮く感覚が体を襲う。
「シ、エル様、だい、じょうぶですから」
絞り出すように声をかけるが彼は反対にギュッと手に力を込めた。
「大丈夫だから、今は僕に体を預けて」
そう言われ強張る体から少しずつ力が抜けていく。
ちらりと彼の肩越しから見えたアリーの顔は悲しそうなのに瞳が真っ黒に光っているように見えた気がした。




