13 突然の訪問者(2)
領地から戻って数日が経ち変わらない毎日。
相変わらずお母様はアリーに付きっきりだし。
私は、図書室へ篭って魔法やこの国の歴史を学び直している。
本来なら家庭教師が来て勉強を教えて貰うのだがうちはアレスが優秀な分、基本的には彼に教えてもらっている。
お父様やお母様が外部から人を家に入れるのをあまり好まないからという理由もある。
私的にも知らない方に来てもらうよりも勝手知った彼の方が気持ちが楽でいいし、今の私はもう前回の人生で淑女教育も全て終えている。
だから、同じことを繰り返す必要もないしアレスも一度言っただけで出来てしまう私に何も言わなくなった。
静かな時間を過ごしながら図書室にある本を読めるだけ読んでいるが、前回勉強したことと内容は変わらない。
それでも、何かしていないと落ち着かないので
本をめくっている。
そんな考えを巡らせていると後ろから声をかけられた。
「セレナは相変わらず勉強熱心だね」
私はその声に肩を揺らし椅子から立ち上がる。
「で、殿下!」
そこには、ニコニコ微笑むヴェルシエル殿下が立っていた。
「セレナ、急に立ち上がると危ないよ?」
「そ、それは殿下が急にお声をかけられたので」
「セレナ?」
殿下はニッコリと微笑みながら一歩私に詰め寄ってきた。
「殿下ではないよ?」
「あっ、それは、その」
私が口籠もると彼はニコニコと有無を言わせない顔でこちらをみる。
「はぁ、シエル様ご機嫌よう」
「うん、ご機嫌ようセレナ」
満足そうに優しいげに笑う彼は、本当に私の知る彼なのだろうか?
そう思ってしまうくらい前回の彼と今の彼の距離が違いすぎる。
彼がこんな風に嬉しそうに笑う顔を私にしたのは本当に数えるくらいだった。
いや、幼い頃のまだ幼馴染と呼べる頃までだと思う。今のこの時期くらいには少しずつ会う回数も減っていたし、ましてや手紙のやり取りなんて定期連絡くらいだった。
そういえば……彼は連絡もなしに何をしに来たのだろうか?
「シエル様、ご連絡なしのご訪問はもてなしの準備も出来ないのであまりしないでくださいね」
私が少し嗜めるように言うと殿下は目を丸くしたあと、眉を下げ困ったように笑った。
「そうだね今回は僕が失礼だった、謝るよ。でも君が領地で危険な目にあったって聞いて本当は早く駆けつけたかった気持ちを我慢して、公務をこなしてから来た僕を少しくらい褒めてもいいと思うな」
誰が彼を冷血で完璧主義だと言い出したのだろうか?
目の前にいる彼はそんな冷たさは微塵もない。
「こんなに心配していたのに、やっと届いたと思った君からの手紙は業務連絡に一言、大丈夫だけだったしね」
少し砕けたようにこんなことを言う人だったのかと思うと苦笑いが浮かぶ。
「ご心配をおかけいたしました。わざわざ足を運んでいただき嬉しい限りです」
「君は本当に顔に出やすいね」
そう言って笑う顔はさっきとうって変わって寂しそうに見えた。
「シエル様」
「あー!シエルこんなところに居た!家に来た時は私に声をかけてって言ったでしょ!」
私の声を遮り淑女らしからぬ大きな声でアリーが叫びながら駆け寄って来た。
相手はこの国の王太子だと言うのに、こんな所を誰かに見られたらはしたないと注意されるだろうし、下手したら不敬罪だ。
「……相変わらず、元気がいいねアリシア嬢」
一瞬、アリーを見る殿下の目が酷く冷たく見えた気がしたがすぐにいつもの柔らかい微笑みに変わっていた。
気のせいだったのかしら?
そう思って仲良く話す2人を見ているとアリーが殿下の腕を引きお茶に誘っていた。
今までの私はそんな姿を無邪気な可愛らしい子だと思って見ていたけれど今思えばかなりわがままだ。
このままでは彼も困るだろうから止めた方がいいのかしら?
でも、前回の時は私と過ごすよりアリーと過ごす時間を選んでいたし、大切にしていた。
いくら今回が少し違っていて、彼との距離が縮まっているように見えたとしても、きっと彼はアリーと過ごす時間を選ぶだろう。
それなら私が止めなくても二人で勝手に出ていくかしら?
二人の成り行きを見守っていると殿下が私の方を向き声をかけてきた。
「セレナ、君も一緒にお茶を飲まないかい?」
「えっ。」
今まで彼がアリーとの時間に私を誘ったことなどなかったのに。
私はなぜかそのまま断れず3人でお茶会をする事になった。




