13話 突然の訪問(1)
領地から王都に戻ると殿下からの手紙が何通か届いていた。
内容を確認したら領地から戻ったら連絡をして欲しいとの内容だった。
出発前に一応しばらく領地に行くと手紙を書いたし、領地からも現場の様子を簡素的にして連絡はしておいた。
だからだろうか殿下の手紙の文面は少し心配しているようだった。
すぐにマルセナに頼み便箋とペンを準備してもらって返事を綴った。
領地の様子と“魔物“の存在。
そして、ほんの一文だけ自分のことについて大丈夫ですとだけ書いて封の中に仕舞い蝋を垂らし印章を押し当てる。
「マルセナ、この手紙をお願い」
マルセナに殿下への手紙を渡す。
「かしこまりました、お嬢様」
マルセナは手紙を受け取り一礼し部屋を出た。
少し外の空気でも吸いにいこうかと部屋の
扉の前にいるユリネスに声をかける。
「ユリネス、少し庭に出たいのだけど」
「かしこまりました。お供いたします」
「ありがとう」
ユリネスは領地での護衛の任の後、お父様が私の護衛として配置してくれた。
アレスが居るからと思っていたのだが、お父様がアレスは王都に戻ってもしばらくはアリーのそばに仕えさせると言ったのだ。
彼がいないことは前回の人生でもあまりなかっ
たので少し私の周りの空気が寂しく感じた。
でも、いくらなんでもアリーのそばに居すぎではないだろうか?
お父様の判断ではあるが少し気になる。
次、彼に会ったら聞いてみよう。
マルセナが手紙を出し終えて帰って来たのでユリネスと三人で庭に向かった。
イレイナも本当は来たがっていたのだが急な人員移動になるため、領地の中の配置を変えたりして準備を整えてからお父様と一緒にこちらに来る事になった。
別れるとき彼女はギュッと私の手を握って「必ずお側に行きます」と力強く言ってくれた。
私の側に居たいと思ってもらえるのがとても嬉しかった。
外の柔らかな風が気持ちよく吹く。
「もうすぐ、夏ね」
「そうですね、少し暑くなってまいりましたね」
回帰してすぐに見たあのアネモネ畑も今は全て散っている。
「そう言えば公爵様が今回の領地の件でセレナお嬢様にご褒美をとおっしゃっておりましたし、新しい夏用のお洋服を買いに街に出てみるのはいかがでしょう?」
マルセナは思い出したように手を叩き嬉しそうに私をみる。
お父様が私にご褒美だなんて。
いつ以来かしら?
少しずつ変わっていく距離が今は嬉しくなって来ている。
「そうね、いいかもしれないわ」
「お嬢様の美しい銀髪にはきっと赤色がよく映えると思います。ぜひ、新しいお洋服を選ぶときは選んでみてください」
ユリネスがにこやかに私とマルセナの横に立つ。
「ユリネス様、それは貴方の髪色じゃないですか、セレナお嬢様にはアイスブルーや薄いピンクなどの淡い色合いの方がお似合いになります」
「主人に自分の色を身につけていただけるなんて騎士の誉ですから、ダメですね?」
二人が何やらたわいもない言い合いをしているとミレッタがやって来た。
「お嬢様、アフタヌーンティーのご準備ができました、お部屋で飲まれますか?」
「そうね、今日は読みたい本が部屋にあるからそうするわ」
「かしこまりました!ところで、あの二人は何を言い合ってるんですか?」
私たちの後ろでまだ言い合いを続けている二人を置いてミレッタと歩き出す。
「さぁ?私にもよく分からないわ」
後ろから慌てて追いかけてくる二人の声を聞きながら私はクスクスと笑った。
「……お嬢様、最近よく笑われるようになりましたね」
「えっ、そう、かしら?」
「はい!とっても嬉しいです」
ミレッタは本当に嬉しうに笑った。
気づかなかった。
10歳に回帰してから4ヶ月近い月日が経った。
あれだけ笑うことも、もうないんだろうと思っていたのに。
今の私はいつの間にか自然に笑えるようになってきているのね。そのことがこそばゆかった。




