12話 黒い影(3)
部屋に戻って少ししてからノックと同時に扉が開く。
入って来たのはアリーだった。
先程の恐怖で少し体が強張る。
「お姉様に話があって、少し時間いい?」
そう言って私の側にきた彼女の瞳はいつもの愛らしい色だった。
彼女と居るのはまだ怖いと感じて体も強張るがマルセナやユリネスにイレイナが今は、そばに居てくれているので少しだけ安心した気持ちで椅子に座るよう促す。
「どうしたの、こんな時間に」
「その、お姉様は体はもう大丈夫なの?」
どうやら私を心配して来てくれたらしい。
あの暗く冷たい瞳をする彼女と私の前にいる愛らしい彼女。
いったいどちらが本当の彼女なのだろうか。
「えぇ、私は大丈夫だけど貴方の方がまだしんどいんじゃない?」
アリーは俯いたまま大丈夫とだけ答えた。
静かな時間が過ぎる。彼女は下を向いたまま動かない。
「何か、飲む?」
動かないアリーに私がそう聞くと彼女は小さく頷いた。マルセナにホットココアを頼んだ。
二人で一口飲む。
体を温める優しい温度が心地がいい。
アリーをチラッと見るが彼女はなかなか話をしない。
しばらくして、意を決したようにポツリと話し始めた。
「……お姉様は、どうして危ないのに領地に来たの?」
アリーの瞳はなぜか不安に揺れているようだった。
「私に出来ることがあると思ったからよ」
「今まではそうじゃなかった!ずっと勉強だけだったし、お父様だってきっとそんなに危険なことにはならなかったわ!私たちが来たことでもっと危なかった!」
私を見つめるその瞳は何かを訴えているように見えた。
「そうね、でも結果的になんとかできた。それに、今回はアリーの魔力があって助かったわ、でも、確かにアリーの魔力があったからだと思う。だから私は、もっと勉強して強くなろうと思う。もう二度と、誰にも静かな未来は譲らない」
アリーは私の言葉に目を見開いた。
そんな彼女の目から私は視線を逸らさず彼女をしっかり捉えて離さなかった。
「……たのね……お姉様は」
「えっ?今なんて言ったの?」
俯くアリーの顔を覗き込むと瞳が濡れているような気がして今にも泣き出しそうな顔をしていた。
「何でもないわ!お姉様に何もなくてよかった!おやすみなさい!」
「ちょっ、アリー?」
彼女は下を向いていた顔をバッと上げ勢いよく大きな声でそう言って部屋を飛び出して行った。
「案外お二人は似たもの同士かもしれないですね」
アリーの出て行った扉と私を見ながらマルセナは嬉しそうに微笑んでいた。
似ている?
私とアリーが?
どこが、似ているんだろうか?
私はそう思いながら彼女が出て行った扉を眺め少し首を傾げた。
その後、私たち姉妹は領地に数日滞在し、お父様はしばらく領地の復興作業をするのに残る事になった。
被害は最小限で抑えられたがそれでも、変えた地形なんかを直したりする作業などがまだあるため私とアリーは先に王都に戻った。
無事に最初の分岐を乗り越えたことに私は安堵のため息をついた。




