12話 黒い影(1)
彼らと少し話しをしてから別れて私はお父様を探して川縁に向かう。
「どうやら公爵様は団長とこの先におられるようです」
ユリネスがお父様がいる場所まで案内してくれる。少し歩いて川縁に着くとレオティス団長と話をしているお父様を見つけた。
私たちが近づいて来たのにレオティス団長が気づきお父様に一礼し下がる。
「お嬢様、私とイレイナは少し団長と話がありますので下がらせていただいてもよろしいでしょうか?」
ユリネスは私の横に来て私の目線に合わせるように少しかがんで微笑む。
「えっ、ユリネス先輩、団長に用があるんですが?私はッ!」
ユリネスの意図を汲み取れなかったのかイレイナはにこやかに近づいて来ていたがユリネスの顔を見て目を見開いて冷や汗をかいてビシッと立ち直した。
「公爵様とのお話が終わられる頃に帰って来ますのでゆっくりお話しください、お嬢様を守れる位置には控えておりますのでご安心くださいね、イレイナ行くよ」
「は、はいッ!」
ユリネスは私に一礼し歩き出し、イレイナは慌てたように一礼をしてから先を歩く彼の背中を走って追いかけて行った。
多分ユリネスは私に気を遣ってくれたのだろう。彼はきっとアレスくらい仕事が出来そう。
私は眉を少し下げて微笑みながら彼らの背中を見送ってからお父様の所へ歩き出した。
近づいてくる私に気づいたのかお父様が私の方をへ向かって来た。
近づいてきたお父様が私よりも先に困ったように少しだけ微笑んで声をかけてきた。
「もう、体調はいいのか?」
私も似たような顔をしてお父様に返事を返す。
「はい、随分良くなりました」
「そうか……」
「……」
少しの沈黙が広がり、お互いが目線を合わせては逸らしを繰り返した。
山間から優しい風が私たちの間を駆け銀色の髪を揺らす。
前はこの沈黙が息苦しく感じたけど今は息苦しいというよりも少し落ち着かない気持ちに変わってきた気がする。
沈黙を破りお父様は私から少し目を逸らして話した。
「セレナ……今回はお前の対策のおかげで領地に大きな被害もでず、作物たちも無事だった……本当に、よくやったな」
「ッ……ッありがとう、ございます」
お父様を映した私の瞳が大きく揺れ、私はスカートの裾をギュッと握り締め俯いた。
お父様の声は、顔は、今までの社交的や義務的なそれじゃないのが伝わった。
もしかしたら少しだけ、お父様に近づけたのかもしれない。
それを、素直に嬉しいと思っていいのか分からない自分もいる。
あの地獄を味わった私の背中が目の前に広がる。
喜びたいのにあの時の自分を置き去りにしてしまうかもしれないと思うと複雑な気持ちが心を覆い被せるような気がした。
でも、少しずつあの時の私も一緒に歩き出したい。あの時の自分の思いとともに今度こそ、あの地獄には向かわない。
私はグッと体に力を入れた。
その後お父様と今日は夕食を一緒にする約束をして屋敷に戻って来た。




