11話 自慢の娘(3)
四人で屋敷を後にし街へと向かう。
馬車の中から見る景色は変わらず美しい自慢の街並みだった。
作戦が成功して、あの化け物を倒せて本当によかった。
街のみんなにも、お父様にも何も起きなかったことに安堵する。
だけど、謎が残る。
あの化け物はいったい何だったのだろう?
前の人生の時も、あのループの時も一度も見たことないし聞いたこともない。
でも、あの姿どこかで似たような姿をした何かを見たことがある気がした。
街に入るとお父様は川の近くに居ることが分かり私はユリネスに頼み馬車を降りて街の様子を歩いて見ながらお父様のもとへ行く事にした。
数日前までの豪雨が信じられないくらい街は活気に溢れていた。
行き交う人々がにこやかに歩いている。
「みんな何事も無さそうでよかったわ」
「それも、セレナお嬢様のおかげです。私たち騎士団も本当にセレナお嬢様に感謝しております」
ユリネスの感謝が嬉しいけど少しくすぐったい気持ちになった。
そのとき、大きな女の子の声が響いてきた。
「あっー!あの時のお姉ちゃんだ!」
小さな女の子が私を指差して駆け寄ってくる。
危険じゃないことは分かっているだろうが私の護衛として来ているユリネスとイレイナが私の前に立つ。
私は二人にそっと触れ大丈夫だと告げる。
少女の後ろからはご両親と恐らくお姉さんも一緒に走って向かって来ていた。
「お姉ちゃん、あの時はありがとう!私たちも助かったし町のみんなも無事だったよ!」
そう言って笑う少女はあの時、アリーと一緒に助けた姉妹の妹だった。
少女の笑顔をみたらとても嬉しくなる、私が誰かを救えたのだと思えたことが。
「こら!アン!この方は公女様だよ、そんなに馴れ馴れしく話しかけていいお方じゃないんだよ、本当に申し訳ありません」
そう言って頭を下げるアンと呼ばれる少女のお母さん。私は手を横に振りながら答える。
「いえ、大丈夫です。私は気にしませんから」
私の言葉に彼女たちは嬉しそうに笑いアンのお母様たちは祈るように私に手を合わせた。
「なんと慈悲深いお方だ、本当にありがとうございました。娘たちの事も街の事も」
アンのお父さんまで頭を下げてくる。あまり慣れないことにどう接したらいいのか分からない。きっとアリーなら可愛らしいく笑ってもっと彼らと上手くやるのだろうと思う。
「先程、公爵様にもお会いしましたがその時におっしゃっていました。公女様が対策を考えてくださったと自分よりもどうか娘にお礼を言って欲しいと」
「お父様、が?」
アンのお父様の言葉に私は困惑と戸惑いを感じた。
あのお父様が私を褒めてくださったの?
私が困惑しているのに気付いたのか彼はニッコリと笑い頷いた。
「はい、“自慢の娘“のように優しい微笑みを浮かべて話しておられましたよ」
“自慢の娘“
その言葉は私にとって果てしなく遠く、私に向けられることのない言葉だと思っていた。
でも、今は“あの子“の為だけじゃなく私のために紡がれたその言葉に胸がじわっと熱くなるのを感じた。




