11話 自慢の娘(2)
私はそう思いながら去っていく彼の背中を見送りマルセナと部屋に戻る。部屋に戻りマルセナと街に出る準備をする。
「まだ、道が歩きにくいかもしれないので動きやすいお洋服にいたしましょう、こちらなんてどうでしょうか?」
「えぇ、それでいいわ」
マルセナに動きやすそうな洋服を選んでもらいちょうど着替え終わる頃にアレスが二人の護衛と部屋にやって来た。
「セレナ様、彼はユリネス・シトラウス。若いですが戦闘においてはレオティス団長様にも引けを取りません、そして彼女はイレイナ・ローレンス。彼女は魔法戦闘に関してはロイガルド団の中でも高い技術を誇ります」
アレスの紹介で現れたのは赤い髪に瞳が青い優しい微笑みを浮かべる青年と、茶色の長い髪を高い所で一つに結び瞳の色が赤い真面目そうな女性だった。
「お初にお目にかかります。ご紹介に預かりました、ロイガルド団第一護衛小隊に所属しておりますユリネスです。一時的ではありますがセレナお嬢様の護衛の任を賜りましたこと、大変光栄に思います」
ユリネスが代表し言葉を発した後二人は私にふわりと膝をつき深く頭を下げた。
「今日はよろしくお願いします」
私は跪く彼らにニッコリと笑った。私たちのそんなやり取りを見届けてからアレスはユリネスたちに向かって言った。
「では、私は下がりますがユリネス、イレイナ、セレナ様のこと頼みましたよ」
「もちろんです」
二人はビシッと立ち上がりアレスに一礼する。
アレスは二人に頷き私の方をみていつものように皮肉を言う。
「セレナ様、マルセナさんに迷惑をかけないよう、危ないことはしないでくださいね」
「アレス、貴方は私のこと何歳だと思っているの?」
「歳は関係ないかと、とにかく彼らから離れないよう気をつけてくださいね」
皮肉はたっぷりだがこれが彼なりの心配の仕方なのは知っている。
「分かってるわ、ちゃんと彼らと行動するから安心して」
私のその言葉を聞いてアレスは一礼して部屋を出て行った。ユリネスたちとその背中を見送った。
「じゃあ早速、街の様子を見に行きたいのだけど」
「はい、アレス様より事前に聞いておりましたので馬車を用意しております、参りましょう」
イレイナの言葉で私たちは玄関に向かった。
彼らは前回の人生では見たことがないのであまり関わっていないのかもしれない。
そもそも前回は基本的にアレスが傍にいて私から離れて、誰か別の人に護衛を頼むなんてことなかったしね。私があまり外へ出たりしなかったからかもしれないわね。
でも、初めての彼らとどの距離で話したらいいか分からない。まだ二人のことをよく知らないし、アリーと違って私はあまり社交性があるとは言えない。彼らになんて話しかけようか静かな廊下を歩きながら考える。
「レオティス団長からお伺いしたのですがこの度の作戦はセレナお嬢様が立てられたのですよね?」
悩む私より先にイレイナがにこやかに声をかけてくれた。
私の隣を歩いているマルセナは彼女の言葉を聞いてなぜか、自慢げに頷いている。
イレイナの言葉に少し戸惑いながら答える。
「そうね作戦が成功してよかったわ」
「本当に素晴らしい案だったと思います!」
イレイナはなんだかキラキラした目で私を見ている。感じたことのないような眼差しで私は困ったように笑った。
「イレイナ、ちょっと興奮し過ぎだよ。セレナお嬢様が怖がっちゃうから少し落ち着こうか」
優しい微笑みで彼女を嗜めるユリネス、彼はきっと騎士団の中でも落ち着いていてみんなのお兄様みたいな感じなのね。
「あっ、も、申し訳ありません」
「構わないわ、褒めてくれてありがとう」
イレイナは慌てて頭を下げてきた、彼女はとても真面目で素直なのが伝わる。
そんな彼女をマルセナも一緒に嬉々として私の話しをしていた。
ユリネスは私を気遣いながらにこやかに二人を見守っていた。
前の人生では想像つかない穏やかで優しい空気になんだかむず痒さを感じたけど、いやではなかった。




