11話 自慢の娘(1)
あれからようやく体も動くようになり外の空気が吸いたくてマルセナと庭に出てみた。
すっかり雨も止み、青空が広がっていた。
「あの大雨が嘘のようね」
「本当ですね」
柔らかな風が雨に濡れた土の香りを運んで吹き、私の銀色の髪を揺らす。庭に咲く花や草には雨粒が乗っていて日の光りに照らされキラキラと光っている。
本当に気持ちがいい朝だ。
「マルセナ、お父様はどうしてるかしら?」
「公爵様は後始末や被害状況の確認などを今、街で行っておられるはずです」
お父様はどうやら街に出ているようだった。
いろいろあの後のことで聞きたいこともあるし街の状況も様子を見ておきたい。
「ねぇマルセナ、街に出たいのだけど」
考えた後、マルセナの方を向いて思っていたことを口に出すと彼女は少し眉を寄せて困った顔をした。
「セレナお嬢様、なんだか幼い頃のようですね」
そんな複雑そうな顔をさせるくらい幼い頃の私はマルセナを困らせていたのだろうか。
前回の人生の時の10歳頃は既に淑女教育も始まっていたから走り回ることもなくなっていた。
それより前の私は少しお転婆だったようだ。
それも、勉強やプレッシャーでどんどん失われていつの間にか綺麗な歩き方に姿勢を保つことに必死になっていたものね。
でも今の自分が少しだけ感情のない自分ではなく感情を出せるようになってきている小さな変化に、くすぐったい気持ちといい知れない不安が心に落ちた。
「アレス様にご相談して、お許しが出ましたら参りましょう」
マルセナは困ったように言ったけれど、少し変わった私にどこか嬉しそうにもしていた。
「ありがとう、マルセナ」
そう言って2人で屋敷の中に入りアレスを探した。しばらく廊下をアレスを探して歩いていると、アリーの部屋の前で彼を見つける。
しかし、彼は誰かと話しているようだった。
アレスの反対側にいるので彼の背中で顔は見えない。
「……少し体が……なんでしょうか?」
声が聞こえてきたがどうやら声からして、話しているのはマリエッタだ。
「大丈夫で……誰も入室……ください」
何を話しているかはまだ距離があって、あまり聞き取れなかったけど、どうやらアリーはまだ体調が優れない様子だった。
「かしこまりました」
声がはっきり聞こえる距離に近づいたときには2人の話は終わったようでマリエッタは私に気づかないままアリーの部屋に入って行った。
アレスはマリエッタが部屋に入るのを見届けている。
パタンとアリーの部屋の扉が閉まったのでアレスの背中に向かって話しかける。
「アレス、ちょっといいかしら」
「ッ、セレナ様、何かありましたか?」
普段のアレスは私の護衛をしているからそれなりに強い。
人の気配を感じ取るのが得意なはずなのに、考え事をしていたのか私が近づいていたことに気づいていなかったみたいで、肩を微かに揺らした。
「急に話しかけてごめんね?ちょっと街の様子を見に行きたいと思ったんだけど、いいかしら?」
私が首を傾げながら聞くと、彼は口元に手を当てて少し考えてから頷いた。
「かしこまりました、ですが私はアリシア様の看病がありますのでついては行けません。2人護衛を新しくつけますので外出の準備をされて待っていてください」
「分かったわ」
アレスは私に一礼しその場を離れた。
彼は私の護衛兼従者のはずなのにアリーの看病?
疑問が残るがお父様がアレスに命令しているようだから私が何か言える立場ではない。
ただ、最近アリーに仕えている時間が長い気がするのは気のせいかしら。
前の人生の時は気づかなかっただけ?
でも、アリーが一緒に倒れてからはほとんどアリーの傍にいる。その事が心に小さな違和感にを落とした。




