8話 はじめて運命を変える分岐点(3)
女性は常に一歩下がり男性を立てる、それが淑女のマナーだと学んだし知識も不十分だった。
でも、未来を変えると決めたからには一歩下がった淑女だけになってはいられない。
「だが、それならセレナは残っていても問題ない、私とレオティスがいれば大丈夫だ」
そう言われるとは思っていたが困難に立ち向かう果敢さも必要だ。そして今の私は前回の18年分の記憶と情報に98回のループで得た知識も武器に立ち向かわなければ未来を変えることなんてきっと出来ない。
「でもきっと私の結界魔法が役に立ちます。レオティス団長と私がもう一箇所に向かえば私の結界魔法で一時的に水の流れを堰き止めて作業が出来ます。だから、どうか私を連れて行ってください」
私は頭を下げる、ここで引き下がればまたあの処刑の未来が待っているかもしれない。
だけど、もうあの場所には二度と戻らない。
あの処刑の日、私は自分のことで精一杯だったけど今思い返してみればみんな何処か悲しげだった気がする。
はじめのうちは恨んだし憎んだ。
こんな人たちを私は大事だと思って来たんだと、繰り返される度に怒りや悲しみが少しずつ消えてどうでもよくなっていった。
今だって本当は少し思っている。
なぜ私が、助けなければいけないのだろう。
でももし何か誤解があってずっと解けていなかったのなら?
あの場所に立たなくてよくなるために、誰のためでもなく自分のために。
この先の未来を変えてみせる。
お父様は私の目を見つめながら小さく息を漏らして一度目を閉じてから鋭く私を射抜く。
「……ふぅ、分かった。では、証明してみなさい自分が出来ることを、結界魔法が使えると言っていたがまだ教えていないのに本当に使えるのか」
お父様は私を試そうとしている。確かに、この時期は本来ならまだ結界魔法を勉強している段階で発動はしたことがない。
でも、今の私なら多分大丈夫だ。
「わかりました、アレス水をくれる?」
「かしこまりました」
アレスにコップに水を入れてもらい受け取り、私は立ち上がり深く息を吸って吐き、手にしている水を上に投げる。水は宙に広がり下に落ちていく。
落ちて来る水に右手をかざし左手で右の手の甲にある血統魔法の証に触れながら対象に向けて唱える。
「固定結界“フィクサディア“」
証が光り、水が薄い膜の中に包まれ宙で固定される。
「ッ!これは」
私の結界魔法に部屋にいる全員が驚き息を呑み言葉を失った。
「セレナ、いつの間に結界魔法を扱えるようになったの?」
お母様は眉を寄せて結界魔法をみながら私に聞いた。その表情は驚いているか、いやそうな顔をしているの分からない複雑な顔をしていた。
「ずっと前から鍛錬していました。お父様、これならいいですよね」
「……約束は、果たそう。いつの間にかこんな事が出来るようになっていたのだな」
そう言うお父様の顔は娘の成長を喜んでいるのにどこか困っているようにも見えた。
「お父様!危険すぎます!足場が悪くて足を怪我するかもしれないんですよ?」
「アリー、これは公爵である私の決定だ、変えることはない」
お父様は声を荒げるアリーを嗜めた。
アリーはお父様の反論に一瞬びっくりしていたが、グッと唇を噛み締めスカートの裾を握っていた。
お母様は立ち上がりそんな彼女を気遣うように肩を抱き摩った。
「セレナ、明日の朝には出発する。マルセナとミレッタに支度をさせなさい」
「はい、それでは準備がありますので下がります」
私はお父様たちに一礼し扉に向かう、アレスが扉を開け私が出るのを待っているが私は、部屋の外に出ようとして一度止まり、振り返る。
「お父様、ありがとうございます」
部屋の中の3人はまた驚いた顔で私を見ていたが踵を返し部屋を出た。
100回目にして変えることが出来るかもしれない運命と対峙するための決意を込めて。




