8話 はじめて運命を変える分岐点(1)
談話室へ向かう廊下で私がアレスにお父様への提案を話しているとミレッタが急にしょんぼりした声で聞いてきた。
「お嬢様?私とお話するときは楽しいですか?」
彼女のこういう所は、ある意味長所でもある、私も少しはミレッタのこういう所を見習ったほうがいいかもしれないと思った。
「ミ、ミレッタ!セレナお嬢様に失礼ですよ」
マルセナが慌てて嗜める。
10歳に戻った時は、どうせまた変わることも進むことも出来ない未来が始まると思っていた。
でも、私の後ろで話すマルセナとミレッタ、それを呆れたように見守るアレス、穏やかな空気が私たちを包んでいる今は、そうじゃないと思えてくる。
「大丈夫よマルセナ、ミレッタ?貴女やマルセナと過ごす時間も私にとって本当に大切で楽しい時間よ」
微笑んでそう返すとミレッタは満足そうに、マルセナは照れたように笑って「ありがとうございます」と返してくれた。
その横でなんだか、少しだけアレスが拗ねているようにも見えた。
きっと今の私はこの領地の災害が最初の分岐点。ここでお父様の未来を変える事が出来ればこの先の未来の改変も上手く行くかもしれない。
そのためには必ずお父様に私の領地への同行を同意してもらわなければならない。
談話室の扉を開けるとそこにはもう、お父様、お母様、アリーが揃っていた。
「ごめんなさい、少し遅くなりました」
「いや、構わない。私たちも今来た所だ、座りなさい」
お父様に促されアリーの隣に座る、彼女の隣に座るのもここ数日で少しずつ慣れてきた。ただやっぱりあの瞳が私を見つめてくるんじゃないかと思うと目は合わせにくい。
「お姉様、お話が終わったら一緒にティータイムにしましょう」
そう言って笑う彼女に微笑みだけ返した。
そして、お父様が領地の話を始める。
「そういう状況で領地が危険だ、だから私は明日から領地に戻る」
「そんなに危険なのに貴方が行かなくても」
お母様は不安そうにお父様の手に自分の手を重ねて言う、人の手を握るのがクセなのかしら。
お母様は不安になると誰がの手を握っている気がする、私は握られたことはないが。
「そうよお父様、足を怪我でもしたらどうするの?」
アリーは椅子から立ち上がり心配そうにお父様に駆け寄るとお母様と同じように手を握る。
きっとこんな所が可愛らしいのだろう。
でも、私には無理。
だから私は私のやり方で、お父様たちとの距離を変えていく。膝の上でグッと手に力を込める。
「お父様、お願いがあります」
微笑み合っていた3人が私の言葉に反応し揃ってこちらを向いた。
「なんだ、セレナ」
私とお父様の視線が交わる。私はしっかりとした声色で言葉を発した。
「どうか、私も領地へご一緒させてください」
「えっ」
先に驚いた声を上げたのはアリーだった。
なんだか、お父様やお母様よりもずっと驚いていた。




