6話 ニ度目の魔力測定(3)
でも、結果がわかっている私は動かなくてはと頭では分かっていても、体が向かいたくないのか少しも動かない。
「セレナ?大丈夫、僕も一緒に行くよ」
殿下は私が向かいたくないのを気づいたのか、そう言って私の手を握って一緒に歩き出してくれた。
その光景に小さな悲鳴みたいなのが聞こえたが今は目の前で起きている事に処理が追いつかなかった。
だって、前はこんな事なかった。
そもそも、立ち合いにだって来ていない。
もしかすると、私が回帰したことによって未来が変わっているの?
気恥ずかしさと魔力量の結果を知っている憂鬱さで混乱し、目が回りそうだった。
殿下と手を繋いで司祭様の前までやって来て二人で祝詞を聞く。
「Gratia Electio【神より賜りし祝福】を」
殿下が手を握ってくれているが、あの記憶が体を少し震るわせる。それに気づいた彼がギュッと手を握ってくれた。彼を見上げると優しく微笑んで手を離した。
その顔にギューッと胸が締め付けられる。やっぱり会いたくなかった。この優しい彼に胸が苦しくなる自分がイヤになる。
泣きそうになりながら選定の石にそっと手を添える。添えたところで私は属性なしで、光も平民以下の小さい光しかないことを知っている。
そう思っていたら選定の石が白い光を放った。
光る強さは平民並で前とあまり変わらなかったが、それよりも驚くべきなのは属性の色が白色に光ったのだ。
「これって……」
以前と違う光景に私が驚いていると周りがざわざわと騒ぎだした。
「あれは何属性?」
「見た事ないわ」
薄い光ではあったが確かに白く光った。
でも、前回の私は平民以下で光っているか分からないような光でしかも属性もなかったのに。
ーー『属性の色が、ない……?』
選定の石に属性の色がなく光も平民以下の光であることに絶望する。
『ラドリディアン家の娘なのに』
誰かが私に後ろ指を指す。
『魔力は、ほとんど無さそうですね。ですが、手の甲に血統魔法を受け継いでおられる証があります』
神官様は少し困った顔をしながら微笑んで私の右の手の甲に手のひらを向けた。
『血統魔法……』
『血統魔法だって魔力が必要でしょ?あまり、意味がないのでは?』
『まがいものね』
みんな私をバカにする。
私は涙が出そうになるのを唇を噛み締めグッと堪えた。
アリーの番で選定の石は、王族並みに光り輝きラドリディアン家の得意魔法である土魔法の色を輝かせていた。
『まぁ、すごい!』
『流石はアリシア様だわ!』
『本当にどこかの方とは大違いですわね』
褒めそやされる妹をじっと見ている事しか出来なかった。ーー
今思えばあの時から私は、少しずつ一人になっていったのかもしれない。
前回とは違う結果に驚き、動けずにいたら殿下が肩に手を置いて話しかけてきた。
「セレナッ!すごいじゃないか!この白い光は光属性だよ!この国に光属性が扱えたのは伝説の聖女だけだ!」
殿下はギュッと両手を包んで笑っている。
その顔はまるで、自分のことのように喜んでいるようだった。
「光の強さは弱目だったけど、鍛錬を積めば少しずつだけど増えていくさ、それに手の甲にも血統魔法を受け継いだ証のユリの花が浮かんでいる」
私の右の手の甲を上に向けて殿下は優しく撫でる。あまりにはしゃぐ彼をみて思った。
今なら、今回ならまだ間に合うかもしれないと。
決して今はまだ、彼と元の関係に戻りたいかと聞かれたら正直、無理だという思いの方が強い。
それでも少なからず彼があんな悲しいくらいの冷たい目を、私に向けなくなるかもしれない。
目の前の優しい彼を救えるかもしれないことに、少し泣きたくなる気持ちをグッと堪えて下を向いて答える。
「よろこび、すぎですシエル様」
「セレナの嬉しい事は僕も嬉しいのは当たり前だろう?」
前と違うことの連続でもう一度、もう一度だけ期待してみてもいいのかもしれないと思ってしまった。
「そんな……ッどう……」
誰かが呟く声なんて聞こえてこないくらいに。
その後、結局アリーの魔力の凄さにみんなが驚いて盛り上がっていた。
でも、私は前見た時より光が弱かったような気がした。




