6話 ニ度目の魔力測定(2)
完璧にこなしたと思ったけれど、カーテシーがおかしかったのかしら?
私が眉をひそめて彼を見ていると手を口元に当てて考えるように少し小首を傾げて話す殿下。
「君は僕が知らない間に随分とマナーの勉強をしたんだね、とっても美しいカーテシーだ」
そう言って微笑む彼はあの冷たい目をしていない。私はそのことに少し戸惑い目を逸らした。
「ありがとうございます」
「けれど……僕のことを殿下と呼ぶのは初めてだね?誰かに言われた?」
あっ、そうだったわ、アリーにも指摘をされていた殿下の呼び方。
この頃の私は私的な場所ではシエルと呼び公的な場所では、シエル様と呼んでいた。
あの処刑ループの時の私たちは距離がだいぶん離れてしまっていて、彼も私のことをセレナリア嬢と呼んでいた。
「いえ、公的な場所なのでその方がいいかと思いまして」
「君は僕の婚約者なんだから、構わないよ?だからいつものように呼んで」
そう言いながら読み取れない笑みで詰め寄ってくる。彼のこういう押しが強い所は、実は昔から少し苦手だった。
「わかり、ました。シエル様」
「うん、その方がセレナらしい」
この無邪気な笑顔も本物なのかしら?
苦笑いを浮かべながら殿下と話をしていると小さな声が耳にはいる。
「セレ……ねぇ」
「本当……ですわ」
何を言っているかは聞こえないけど噂話をしているようだ。それに、私の名前が聞こえてきた気がする。
聞こえたほうをチラッと見るとそこには、3人の令嬢がこちらをみてコソコソ話をしていた。
私が何かしたかしら?
内容は聞こえてはこないが雰囲気からあまりいい話ではないことは確かだった。
私がそちらに気を取られているとその令嬢たちが見える反対側にいた殿下が私と令嬢の間に入る。
顔を見上げると殿下はニッコリと笑っていた。
「君が気にする事はないよ、それよりもその服は僕の色かな?」
そう、私の服のコーデは殿下の髪色や目の色に合わせられていた。これが、私がこのドレスを着るのをためらた理由だ。
ミレッタにあまりの期待たっぷりの瞳で見られたので着てしまったがやっぱり殿下に見られると恥ずかしい思いが溢れ出してきた。
「その、侍女が準備してくれまして」
あまりの恥ずかしさに下を向きながら私が選んだのではないことを思わず主張してしまった。
「そう、君らしいね」
悲しげな声がして顔を上げると目に映ったのは、眉を下げ悲しげに笑う殿下の顔だった。その顔に少し申し訳なさが込み上げてきた。
「はしたない……」
「……いつまで……かしら」
さっき噂をしていた彼女たちは、私たちの会話を聞きながらまたコソコソと話を続けた。
ついその声が気になってしまいチラッと彼から目を離し彼女たちの方をみた。
それと同時に彼女たちは慌ててその場を離れて行った。
どうしたのだろうと彼の顔を見ると彼は彼女たちが居たところを向いていてその顔色は見えなかった。
私が声をかける前に彼は私の方に向き直り微笑む。
「大丈夫、僕はいつだって君の味方だよ」
優しく少し悲しげに微笑むその顔とその言葉に記憶の奥が揺れ胸を締め付けられた。
ーー『セレナ、大丈夫。私はいつだって君の味方だ。信じて待っていて、約束する』ーー
それは、悲しそうな顔をした彼が学園に入ってはじめてのダンスパーティーで私に言った言葉だった。
あの時は何故、彼がそんなことを言ったのか私は聞かなかった。
もう、彼は私よりもアリーといる時間の方が多かったしその後すぐに、彼との距離は大きく開いてしまったから。
今思うと私は、幼馴染で婚約者であったはずの彼のことを何も知らなかった気がする。
この国の王太子で、勉強に剣術、魔法にも長けていて誰にでも優しく多くの人に慕われていたということしか知らない。
本当の彼はどうだったのだろうか?
何故私は、彼と分かりあうのを歩み寄るのをすぐに諦めたのだろうか?
何がそうさせたのだろう?
「セレナリア・ラドリディアン様前へ」
私が彼の顔を見ながら思考を巡らせといると急に名前を呼ばれ、びっくりした私は肩を揺らした。いつの間にか私の番がきていたのだ。




