6話 ニ度目の魔力測定(1)
魔力測定を行う朝。鬱蒼とした気分の私とは裏腹にいつものようにマルセナたちが準備を手伝いに来た。
「今日は勝負の日なので気合いを入れていただけるようにこのドレスにしましょう!」
勢いよく鼻息を漏らすようにどうだと言わんばかりに、差し出されたのは深い翠色を基調とし裾に少しだけ金色の刺繍がしてあるドレス。
そもそも勝負とはいったい何の話かしら。
一度経験してしまっているからか、たかだか魔力測定を行うだけなのにと思ってしまう私。
そんな私をよそに、キラキラと目を輝かせ私がそのドレスを着るのを期待しているミレッタ。
でも、彼女が持ってきたこの色は……。
正直なところ、あまり気が進まない。
「私もこれがいいかと思います」
マルセナまで期待の眼差しで見てくる。
こんなに期待されてしまっては着ないわけにはいかない……わね。
私は一つ息を漏らしてそのドレスを着た。
二人はとても満足そうに準備を整えていく、私の長い銀髪はハーフに上げて残った髪と纏めて編み金色を基調としたリボンで結ばれる。
小さな花が少し散りばまられるように髪に刺されて大人っぽい中に少し可愛らしさのある髪型になった。
準備が終わり玄関に向かう。
この明るい廊下にも慣れてきて使用人たちとも会話をするようになっていた。
最近特に仲良くなったのが16歳のマリエッタ。彼女はアリーの侍女だ。
「おはようございます、セレナ様」
「おはようマリエッタ」
「アリー様は先ほど玄関へ向かわれましたよ」
彼女は私たちが仲良しだと思っている。
だからこそ、彼女と仲良くしていたらアリーの様子を聞けるかもしれないと打算的に考えた。
あのループで裏切る事になる妹の動向を知ることが出来れば事前に回避出来ることもあるかもしれない。
まだ、何も分かっていないけど私が悪女と呼ばれる原因の一つに彼女が関わっているんじゃないかと感じている。
「そう、ありがとう」
マリエッタに微笑んで返事をして彼女と別れた。
まだ、この先どうしたいのか分からないけどあのループのようにはなりたくない。ただ、あの時から変わらず思うのは静かに生きたい。
私はそう願いながら玄関に向かうともうみんな揃っていた。
「あっ!お姉様おはよう」
笑顔で駆け寄ってくる彼女にも、この数日で慣れてきた。
「おはよう、アリー」
「揃ったな、さぁ馬車に乗りなさい」
タウンハウスから馬車に乗り王都の中心に位置するこの国一番の教会へ向かう。
1回目のときは、ワクワクしたこの道が今はすごく暗く見えた。
前に座るお母様とアリーは楽しそうに笑い、お父様も微笑んで二人を見守っている。
私はそんな家族を横目に窓の外を見つめながら不安と息苦しさを感じているのに、この気持ちを拭ってくれる人はいない。
教会につくと両親や使用人は別室で待機。
私たちは、選定の儀を受ける平民や他の貴族の子供たちが待機する場所へ向かう。
部屋についてすぐにアリーはどこかに行き、私は後ろの隅の方に座った。
神官様に呼ばれたら選定の石に触れる。
前回の私は自分がラドリディアン家に相応しい魔力量を手にしていると信じていた。
また、あの惨めな思いをしなきゃいけないのね私は下を向いたまま膝の上で拳をギュッと握った。
「やぁ久しぶりだね、セレナ。体調はどうだい?」
考えごとをしていたら声をかけられた。
よく知っているその声に耳を塞ぎたくなる。
それでも相手は王族でもあるし今はまだ私の婚約者でもある。
それに、今の殿下とはまだ確執がないから無視をするわけにもいかないし座っているわけにいかず、ゆっくりと立ち上がり前の人生で染みついたカーテシーを彼にする。
「お久しぶりです殿下。体調は良くなりましたし、お見舞いの花束もありがとうございます」
「……」
今の殿下は私の一つ上の11歳。あの頃の殿下は中性的で美しいの言葉が似合う顔立ちだったけれど、久しぶりに見た幼い頃の殿下は髪は肩くらいまでで、その顔立ちは男らしさよりも可愛らしいさが残る。
目の前の殿下は私の挨拶に、もともと優しい大きな目をしている目を更に大きく見開いて私を見ていた。




