5話 変化の兆し(2)
あれから夕食も終わりマルセナやミレッタに湯浴みをしてもらった。
今は上がってアレスたちゆったりとした時間を過ごしている。
「今日はもう寝てくださいね」
濡れた髪を風魔法が込められた魔道具でマルセナが乾かしている、その向こうではアレスが呆れたよう私を見て言う。
「分かってるわ」
「はぁ、本当に寝てくださいね」
彼はまったく信用していないのかため息を吐きながら再度、忠告してくる。私はそんなことよりも、風が心地よくて眠くなる。綺麗に髪を梳かしてもらいベッドへ向かう。
「しつこいわね」
「しつこく申し上げないと聞いていただけないので」
「アレス様の言うとおりセレナお嬢様は意外と頑固ですから」
ベッドの脇に腰を掛ける私を見るアレスの目はぜんぜん信用していないし、マルセナも苦笑いを浮かべていた。
というか、彼らは私が主人だと分かっているのかしら?
そんなことを思いながらベッドに入る。
「大丈夫よ、ちゃんと寝るから」
「それならいいです、ではお休みなさいませセレナ様」
「おやすみなさいませ、セレナお嬢様」
ベッドに入った私を確認してからアレスとマルセナは私に一礼し部屋を出て行った。
彼らが出て行ったのを確認してから、はしたないと思いながらも、ベッドの横の小さな灯りをつける。
アレスに持って来てもらったノートを出し寝転がりながら記入する。
まず今起きてる事を整理しとこう。
彼らの話を聞く限り今は、10歳の春。
そして、まだ魔力測定を受けていない。
「はぁ、あの落胆をもう一度味わうのね」
前回の魔力測定を思い出しながら口から言葉が漏れる。私にとってこの日は、初めての絶望の日だ。
ーー『あの名門たる“ラドリディアン家“の娘ではないのかしら』
どこからともなく聞こえる中傷。
『妹はまさに逸材ですのにね』
あの子ばかり。
『あんなにラドリディアン家の“象徴“を公爵様よりも、色濃く受け継いでいらっしゃるのに』
冷たい視線が突き刺さる。
『“まがいもの“』ーー
こうして振り返ってみると、思い出したくないことの方が多い人生だったんだと今になって思う。
あの地獄の1ヶ月だけじゃなくて元々私の人生は崩れていたのかもしれない。
でも、今更どうしたらいいの?
どうしろっていうの?
整理したいのに一度壊れた心が立ち上がることを拒んでしんどくなる。
布団に顔を埋め考える。
考えていたら眠くなって来た。
今日はもう頭も回らないし寝て、明日また考えましょう。
私はベッドの隣の鍵付きの引き出しにノートを仕舞い布団に潜り込む。
目を閉じればゆっくりと夢の中へ落ちていった。




