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【第4話】火星計画始動(2145年)


2145年の春。

火星移住計画案は、世界中に大きな波紋を呼んだ。

「火星移住」は単なる科学プロジェクトにとどまらず、長年の戦火で疲弊した人類への最後の希望として祭り上げられた一方で、地球に残る国々の反発も激しかった。

膨大な資源を投じるべきは地球再建だという声、火星開発は理想論に過ぎないという声、さまざまな対立が各国議会や世論を二分した。


そんな中、世界のトップ科学者やエンジニアが火星開拓の枠組み「火星開拓コンソーシアム」に招集される。

初会合では、酸素生成プラント、土壌改良技術、居住ドーム設計など、技術課題と資金調達のロードマップが次々に示された。

ユウマも開発責任者の一人として呼ばれ、彼は人間の「心」と「技術」を融合させる提案を行う。


「数理モデルだけでは足りない。ここで暮らす『人々』を想像し、心地よい空間を作ることも科学の責務です」


ユウマの言葉は静かに、しかし確実に賛同を呼んだ。

レアの視点である「共存」への提案が、技術と人心をつなぐ架け橋となったのだ。


火星への航行

半年間の最終調整を経て、ついに火星行き輸送船「エクリプス号」が打ち上げられた。

エクリプス号は火星到着後にそのまま居住ドームとなるように設計がされた船である。


レアは「火星の姫」として、クローン人間代表団を率いる医療チームの一員として乗船。

ユウマは技術チーム長として艤装部門を統括する。

母船が大気圏を抜ける瞬間、レアの瞳に涙が光った。


「見て、あれが私たちの新しい故郷」


ユウマも窓越しに赤く輝く火星を見つめる。

長い航海の疲れも忘れさせる、神秘的な眺めだった。


着陸地点はオリンポス山の麓。

到着早々、火星はその冷酷さを見せつけた。

想定を超える微細粉じんが機器に侵入し、空気リサイクルシステムのフィルターが詰まりかける。

排水システムのテスト中には、圧力変動でパイプが破裂し、ドーム内部の湿度が異常上昇。

食糧生産用の栽培プラント用土も、火星独特の鉱物が混ざり込み酸性を帯びていた。


各チームは不眠不休で修復と改良にあたる。

ユウマは夜通しシミュレーションを回し、レアは医療室にこもりながらも育苗データの観察を続けた。

疲労が募り、メンバーの士気が揺らぐ中、二人だけは声をかけ合い、支え合った。


ユウマ「もう限界かもしれない」

レア「あなたがいるから私は頑張れる。あなたも私だけをみて頑張って。」


励まし合うその短いやり取りが、何よりもチームの希望となった。



数週間の死闘の末、酸素再生プラントのフィルター改良に成功し、居住ドームの大気圧は安定を取り戻す。

食糧プラント用の土壌改良もユウマのデータ提案で克服し、試験管苗が小さな緑を芽吹いた。

その日の夕刻、レアとユウマはドームの外で初めて一息つく。


レア「見て…最初の緑よ」

ユウマ「ありがとう、君とここに立てて本当に良かった」


赤い大地をバックに、水滴をたたえた若葉が輝く。

二人は肩を並べ、眼前の奇跡を胸に刻んだ。



火星計画の始動は、地球の人々に新たな希望を与えた。

コンソーシアムには追加予算が決まり、各国とも技術協力が本格化する。

ユウマとレアは次なるステージ

──居住区拡大、資源探査、酸素製造量の最適化──に挑む。

試練は続くが、互いを信じる絆が、何よりの原動力となっている。


赤い惑星で芽生えた緑は、戦火に疲れた人類の新しい未来を象徴する。

ユウマとレアの支え合いこそが、火星における共生社会の礎となるだろう。

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