無邪気に
アスファルトの道路を、靴で蹴り上げた。
反響する音、壁から壁へ交差する。
軽快だ。
こうして目の前だけを見据えて、足を踏み出すたびに生み出される乾いた音だけに耳を澄ませる。
走っている。
暮れた景色の中、帰路につく数人は追い越して。
私の着たスーツには似つかわしくない運動靴。四角い会社用バックは空っぽだ。
私はどことも逆方向へ向かう。
立場も、未来からも目を逸らそう。
名誉も富もいらない。
今日も明日も、家にも、仕事場にも帰らなくていいかな。
こうして自分のキャリアも、信用も。
「この先」を捨てて、ただ走っていられればいいんだよ。
ああ、明日の会議はどうなるんだろうなあ。社の存続を決める重要な会議。
でももういっか。これからバックレる私は、どうせクビになるだろう。
微笑む。これからの自分は、未来は、もう直視していない。
これからどこへ行こうか。海はさみしくなるな。高級ホテルにでも泊まろう。
タクシーにでも乗ろうか?いや、走っていこうか。
どこか違う場所へ。
私が自由なまま、笑っていられる場所へ。
心の底から笑っていられるのなら、何を捨てたって、どこへだって行ける、
そう信じて生きているから。