07話
舞い落ちる桃色の花
額に触れ鼻を霞める桜の香り
空に手をかざすと掴める花びらの数だけ、何か起きないかな……
バイト捜しもしたいのに、今はこの我儘な女の子をこいつの家まで送っている。
はぁ~、しかしなかなか遠い。
春の陽気とは裏腹に額に汗が流れる。
こんな汗も後ろで鼻唄歌ってるこいつには知るよしもないんだが……。
「まだか……家?」
「もう少し!!キリキリ漕ぎなさい」
「俺さ、バイト探したかったりするんですけど……」
「いいから、漕ぐ!!」
ったく、何様のつもりだよ。
内心文句たらたらだが、パッチリ開いた鋭い瞳を前にすると何も言えない。
是非ともあなたの親と話してみたいもんだよ……本当に。
――それから数分
「あ!着いたわよ、ここよ、ここ」
「ここって……これ全部?」
そこには今、立っている場所から左右100mはあるんじゃないかと思わるほどに長く、そしてまったく中身が見えないほど高い壁。
奥行どんだけ……。
「お、お前ん家どんだけ金持ち?」
何なんだ、この俺とお前の差は……。
僻み以外の感情、ほとんど持ち合わせないぞ。
「ま、これがあんたと私との大いなる差って奴よ」
無い胸を高らかに張って自慢する桜実。
おぉっと、なかなかの天涯絶壁だ。
っつかその冷めていて投げやりで妙に反抗的な態度辞めてくれ。
「……まぁとりあえず俺は帰りますね」
どさくさに紛れてひっそり帰ろうとする慧だが
「ちょっっと待ちなさい!!」
「ぐはっ!!」
桜実に首根っこを捕まえられてその場に卒倒してしまう。
まるで狼に捕らわれた羊の様に。
「まだ……何か?」
恐る恐る尋ねる慧。
「だ~れが帰っていいって言った!! 私の家はこれからが遠いんだから漕ぎまくりなさい!!」
侮蔑の瞳を向けてくる桜実。
「マジ……かよ」
その場で項垂れる慧。
そしてこれから今にも大レースが始まろうとしている。
またまた今度は数十分後
「さぁ~て到着」
「や、やっと着いた……」
ぜ、ぜ、絶望した~~。
広すぎるんだ!!
この家はよ!!!
見上げる先には天空高くそびえ立つお屋敷。
屋敷の周りの庭には大きな噴水を始めとして、よく手入れがしてあると見れる木々の数々がシンメトリーにズラリと並んでいる。
め、目眩が……。
もうヘロヘロな慧。
その場で深呼吸を繰り返す。
「なっさけない」
桜実からの厳しい一言。
単語ブッ切りで呟く桜実。
「お前、少しは……」
「お、お嬢様~~!!!!」
慧の話しを意識して途絶えさすように聞こえてくる呼び声。
お願いだから皆、人の話しはちゃんと聞こうよ……ね。