12話
夕日に陰りが見え始める。
辺りは段々暗くなる。
春先だというのに空を雨雲が覆い被さり、いっそうな暗闇に。
コツ、コツと。
足音が響く路地裏。
「ハァ……ッ……ハァ……」
隠し様のない荒い呼吸をする少年。
辿り着いた先には座りこんだまま俯いている少女。
人が現れた事に気付いているのか、気付いてないのか。
少女の前に腰を下ろす、……慧。
「ごめん、ごめん…………」
消え入りそうな声で
何回もごめんを繰り返す桜実。
泣きながら嗚咽が止まらない。
「……だ、だから嫌なんだ……金持ちなんて……」
嗚咽と共に涙が止まらず……だが一言一言紡ぎ出していく。
「……っ………良い事なんて………にもない。何処に行くにもSP付……で、まともに遊びに何か……まったく………まったく出れない!!」
強い想いと弱い心。
何でこんなにも君は傷つかなきゃいけないんだ……どうして誰も1人も分かってやれないんだよ……
涙を溜めた瞳から零れ落ちる一粒の雫。
乾いた地面に落ちるそれを……手のひらで救うことは出来ないのかよ……。
「学校でも……そう、お金持ちの噂の……1人歩き」
一つ間をおき、大きく息を吸う桜実。
そして何年も何年も一人孤独に溜め込んだものを吐き出していく。
「私の周りが危険だと分かると……皆が私を避けていく!……友達も……っ……まともに作れ………ない」
本心からの気持ち。
強く強く言いはてる。
やっぱり周りが桜実を分かってやれてない……改めて感じる。
誰も分かってくれない辛さから人に冷たくあたる。
強がって……震えて、悲しんで。
「誰も……私の気持ちを分かってくれない!!!」
自分の心を吐き出した桜実。
瞬きする瞳には何が映っているのか、近くにいるような気がするのに……君の姿は儚すぎる、
それから数分。
何も出来ない、何もしてやれない、何も言ってやれない。
情けない自分が憎らしい。
身を屈め、震えて揺れる桜実の体。
小さく弱く映る姿、桜実……桜実!!
「どうした桜実!!」
「…ッ……ハッ………ハッ……ハッ…ハッ…ハッ」
徐々に、徐々にだが呼吸が早くなる。
おかしい、なんだ…………!
そういえば、体が弱いとか言ってた様な……。
もしかして…………“過呼吸”?
「いいか桜実!!ゆっくり息を吸うんだ、ゆっくり大きくだ!」
「…ッ…ス…ハッハァ…ハッハッ…ハッ…ハッ…ハッ…ハッ…ハッ…」
駄目だ、嗚咽が酷すぎて止まらない
……クソ!!
「……桜実!!」
……………………。