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11話


「…はぁ、はぁ、、……くそっ!」



夕方、人気の無い路地裏。


壁に打ち付けた拳から鈍い音が場の静寂の中に響き渡り、同時に言葉を荒あらしく吐き捨てた。


徐々に視界が、ぼやけてくる。

拳の痛みは元の痛みを和らげてはくれない。痛みの根本を触ってみると、痛みと共に感じる生暖かさが分かる。血だろうな確実に。




数分前、空に響いた叫びは、次の瞬間生々しい打撃音に変わる。そこで世界はまるで止まったかの様に、鈍い痛みは一瞬で身体を駆け回り、俺の時を止まらせた。

痛みの衝撃は思考の停止へ。何も考えられなくなった数秒、妙に長く感じた刹那が訪れる。

目の前が真っ暗になりそうになった。



――でも。

視界にハッキリと写った女の子の恐怖の表情は俺の意識を戻し覚醒させた。


その直後、動かない、動けない桜実をひっつかみダッシュで近くの路地裏に逃げ込み、走って、走って行き着いた…いや行き止まりに追い詰められてしまった。





「くっそ…」


なんで自転車を止めた。

なんで振り返った。

なんで気付かなかった。


馬鹿だ、馬鹿だよ俺。これくらい予想できたのに、桜実ほどの金持ちなら襲われる事があっても不思議じゃないだろうにさ。


こんな時でも考えてしまうのは、これからどうするかじゃなくて、過去の後悔。

そんな事、考えている場合じゃないと分かっている。でも考えこんでしまう、矛盾を抱き、結局今、何も出来ていない俺は最低だ。





「もう…嫌……」


ぽつりと呟くと泣きながらそこに座りこむ桜実。


ごめん、ごめんな。

俺の責でこんな事に。


……そして、こんな時に何も出来ない俺はもっとダメな奴だよな、絶対。



いやに意識は冷静にはっきりした。自分を奮いたたせ、壁を背に崩れ落ちている桜実に背を向け路地裏に向きなおる。

相手は2人。

でも戦う、闘わなきゃいけない、恐いけど…さ。



震える桜実の頭に手を置いて軽く撫でてみる。

伝えたいことがあるんだ、お前に。お前だけにな。


震えて泣いている君を守りたい。ただその思いだけで、小さく座りこんだ君を見つめるだけで、君を助ける理由が――勇気が湧いてくる。


逃げる訳にはいかない。

行くしかないんだ。



震える足を引き立たせて、ただ突っ込んでいこう。

恰好なんか気にしないで、ただがむしゃらに。



―だって、それを今

俺が決意したんだから。


理由や言い訳なんていらない。君を守る意思の前には思考を必要としていなかった。





▼▲







「もう…嫌……」


私は無意識の内に呟いていた。

何の自覚もないな私の思い。



まただ…また私は傷つける。

二度と、もう誰も傷つけない、巻き込まないと自分に誓ったのに……。



彼に甘えて、優しさに甘えて

君は離れていく。


柔らかな瞳と暖かな体温を私に残して……。


私の傍から離れていく。

ねぇ、お願い、お願いだから…離れないで。

嫌、辞めて……何で、どうして。



止めなきゃいけない。いけないのに…。

何で嫌だ、嫌だよ。




後悔する。


何で私は彼と関わった、どうして彼に甘えたんだ、と。



そして同時に無性に悔しくなる。





何で私は


桜実 怜


なんだろうかと。





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