10話
朝の言い合いから半日。今は昼食終わりの5時間目。
あれから慧は隣に座る桜実と会話どころか目さえ合う事がない。
悪くないよな……俺。
俺に非は……ないと思う。朝だって勝手なこいつの言動や身勝手な考えに振り回されたんだ。
何が“良い事何て一つもない!!”だよ……。
お前の周りにいる人の気持ちさえろくに知らないでさ。
……でも、それだけじゃないとしたら。
なかったとしたら……。
隣に座る桜実に視線をさりげなく移す慧。
朝、こいつは……桜実は言った。
“お前に何が分かる!!”
必死に、悲痛に、何かを訴えるかの様に俺に言い放った。
もしかして……
もしかすると……
……ただ単に俺がこいつの事を分かってないだけ、周りが桜実を分かってやれてないんじゃないか……。
……桜実はまたこうも言った。
“分からない!!誰も私の心の中なんて分からない!!分かるはずがない!!”……と。
怒気の裏に見え隠れする儚さ。
微かに震える桜実の体と瞳。
全てにどこか弱々しさが、もろさが潜んでいる。
断片的に移る桜実の荒々しい姿はただの見せかけなんじゃないか……
苦しいんじゃないか……悲いんじゃないか……。
結局、それからは桜実の事を考えるばかり。
授業などに集中出来るはずもなく気付けば放課後。
隣に座る桜実。机に顔を俯いたまま動く様子がない。
大方の生徒が帰って行き教室にはまばらにしか人はいなくなっている。
いくら何でも帰らない訳にかないか……。
ガタガタと音を発てて机から立ち上がり荷物を持ち教室を出ようとする慧。
隣で移動する慧の一つ一つの動作に軽いびくつきを見せる桜実。
「……はぁ〜、ほら帰るぞ」
ゆっくりと顔をあげ、こちらを見る桜実を背にゆっくり歩き出す慧。
急いで後をついて歩く桜実。
何も声をかけれない、何か言わなきゃいけない気はするが、言葉が出てこない。
僕らの距離はまだ、今はまだ遠すぎる……。
知らなすぎる事が多すぎたんだ。
自転車での帰り道。
無言が支配する静寂の中で後ろの桜実に視線を移す。
夕日色に照らされる桜実。
普段の見せかけだけの強気。実際な内心に見える弱気。
知り合ってまだ日は浅いが考えれば考えるほど桜実に当てはまる気がしてならない。
お金持ち様の気持ち何て俺には分からないが、でも、まぁ……誤っておくくらいしとくべきなのかな。
「なぁ……桜実」
徐々に自転車のスピードを落としながら背中越しではあるが、桜実に声をかける慧。
「………………何?」
自転車のスピードもだいぶ遅くなるほどの沈黙の後に呟かれる抑揚の無い言葉。
大きく深呼吸。
自転車を止めて後ろを振り向く慧。
「あの…………あのさ…」
「あ、危ない!!!!」
「え……」
俺の言葉が途中で遮られて桜実の叫びが聞こえた直後、俺の頭に激痛が走る。
刹那、あまりの事に俺は何が起きたかさえも理解する事が出来なかった。