猫のような
翌朝。
俺たちは、王都の宿屋から出た。
食料を買い込むと、王都の北に位置する森に向かう。
「新しい戦斧♪ 綺麗な戦斧♪ 頬ずりしたくなるにゃ~」
フローラが、歌を歌いながら新品の戦斧に頬ずりする。
「もう既に頬ずりしているじゃありませんか」
ルイズが、苦笑する。
「ん。綺麗だから頬ずりしたくなる気持ちも分かる」
エルフリーデが、無表情のまま言う。
猫神族の美少女は、アダマンタイトの戦斧が本当にお気に召したようだ。
肌身離さず持って、ずっと抱きしめるように抱えて歩いている。
「使うのが勿体ないから素手で闘うとか言わないでくれよ」
俺が笑いながら言う。
フローラがビクリと猫耳を立てた。
「……にゃ、にゃんで分かったの?」
図星だったのか。ジョークのつもりだったのに。
「フローラ、綺麗な戦斧で勿体ないのは分かりますが、あくまで武器ですよ?」
「ん。使わないと意味が無い」
「で、でも~、こんなに綺麗なのに傷がついたら、可哀想だにゃ~」
フローラが我が子を抱きしめるように戦斧をかばう。
シュールな光景だな~。
「それに今の私なら、多分、素手でも相当強いと思うよ?」
紅茶色の髪の猫神族の美少女が真剣な顔をする。
「まあ、フローラの身体能力からすれば素手でも相当強いだろうな」
俺は頬をかいた。
「で、でしょ? だったら、戦斧は大事にしまっておいて、私は素手で闘う!」
戦斧をしまっておくなんて初めて聞いた。なんて、斬新なアイデアだ。
「でも、素手だとフローラの拳が痛む可能性がある。それに素手と戦斧だと攻撃力が桁違いだ。やっぱり、戦斧を使った方が良いと思うぞ」
「にゃ~、でもぉ~」
俺が忠告して、フローラは悲しそうな顔をする。
う~ん。
これは予想外の事態だ。
ちゃんと説得しないとな。
「フローラ、もし戦斧を使わずにフローラが怪我をしたら、俺もルイズも、エルフリーデもとても悲しいし、心配する」
「う、……うん」
フローラが、しっかりと俺の話を聞く。
翠緑色の瞳の美少女は、素直な性格なので、ちゃんと人の話を聞いてくれる。
「その戦斧は綺麗だし、大事にしたくなる気持ちは分かるよ? でも、肝心のフローラが怪我をしたら大変だ。お願いだから、ちゃんと戦斧を使って欲しい。頼むよ」
俺がフローラを真っ直ぐに見つめて言うと、フローラは頬を染めて翠緑色の瞳をそらした。
「にゃー、う~、わ、分かったよ。カインの言うとおりにする……」
「ありがとう」
俺は歩きながらフローラの頭を撫でた。
「にゃ~」
紅茶色の髪の美少女は目を細めて嬉しそうに喉を鳴らす。
猫みたいだな。いや、猫神族だから当然かな?




