宿屋
無事に買い物が終わり、レストランに行って夕食にした。
相変わらずフローラの食欲が凄い。
すでに5人前を食べているが、まだ食べてる。
惚れ惚れするような食べっぷりだ。見ていて気持ちがいい。
「美味しいにゃ~♪ エルドラス王国は、どうしてこんなにご飯が美味しんだろう?」
フローラが心底嬉しそうな顔をして食べる。
「確かにエルドラス王国は食材が豊かですし、料理が美味しいですね」
ルイズが賛同する。
俺は祖国を褒められて少し嬉しくなった。
エルドラス王国は国土が広く、豊穣な大地に恵まれている。
豊かな食材に恵まれ、食文化が盛んなので食事の美味さには定評がある。
「ルイズたちの故郷の食事はどんな感じなんだ?」
俺は好奇心から質問した。
彼女たちの祖国アルヴヘイム聖王国はどんな食文化があるんだろう?
「なんというか、薄味ですね」
ルイズが苦笑する。ちなみにフローラ以外は全員、食後の紅茶を飲んでいた。
「うん。決してマズイ訳じゃないんだけど……。なんか、どの料理も味が薄いんだよね」
フローラは言い終えると食事を再開した。まだ食べるのか、凄いなぁ。
「食文化は、エルドラス王国の方が上」
エルフリーデが無表情で言う。
ルイズたちが言うには、アルヴヘイム聖王国は食材を生かした食文化とでも言おうか、全体的に薄味らしい。
不味いわけではないが、美味いという訳ではないという微妙な食事が多いそうだ。
「祖国を出て、エルドラス王国に来た時、食事に感動して涙が出た」
エルフリーデが、懐かしそうな顔をする。
「三人とも、どうしてアルヴヘイム聖王国を出て冒険者になろうと思ったんだ?」
俺は紅茶を静かに飲んだ。
「そういえばまだお話していませんでしたね。私は外の世界にたいする憧れがあったのです」
「私もだにゃ~」
「ん。聖王国は時が止まった国で、退屈」
希少種の美少女たちが語り出した。
アルヴヘイム聖王国はハイエルフの王族が治める王国で、猫神族や精霊族など多様な種族が平和に暮らしているという。
聖王国は国全体を防護結界で護り、他国との交流を制限している。
変化を嫌い、保守的な傾向が強い国らしい。
エルフリーデは、「国全体がヒキコモリ」、と酷い事を言った。
「死ぬまでに外の世界を見て回り、色んな体験をしたかったのです」
「三人とも冒険者に憧れてたしにゃ~」
「ん。何度も死にかけたけど後悔はしていない。冒険者は楽しい」
未知の世界に憧れて冒険者になりたいと思ったのか。
若者らしいなァ。
いや、俺も20歳だから、一応は若者か。
フローラはようやく食べ終わり、満足そうな顔をして紅茶を飲み始めた。
猫神族は猫舌なのだろうか? やたらとフーフーと冷ましている。
「デザートも食べるか?」
俺が言うと、
「食べます」
「もちろんにゃ~」
「絶対食べる」
希少種の美少女たちが喰い気味に言ってきた。
凄い真剣な顔だ。
今まで一番、真剣な顔をしている。
女の子って甘いモノが好きだよね。
夕食の後は、公衆浴場にいってサッパリした。
エルドラス王国は、こういう大衆の為の公衆浴場が沢山ある。
その後、宿屋に行ったのだが、六軒もまわって全部満室だった。
ようやく、七軒目が見つかったのだが、一部屋しか空いていなかった。
とりあえず、二十日分を前金で予約した。
「ベッドだにゃ~♪」
フローラがベッドにダイブして、子供みたいにはしゃぐ。
「フカフカ……、極楽」
エルフリーデも、ベッドにうつ伏せになってくつろぐ。
「ようやく宿が見つかりましたね。」
ルイズが、疲れたように苦笑してベッドに座る。三人とも風呂上がりのせいか、妙に色っぽい。
「そうだな」
俺は頬をかいた。
困ったな。
一部屋しか空いていないとは。本当は俺だけ別の部屋にするつもりだったのだが。
「あのさ……俺は野宿するよ。じゃあな」
「待って下さい。なんでですか? 先生」
ルイズが止める。
「にゃ~、なんで野宿するの?」
「師匠も泊まるべき、身体を休めないと」
猫神族と精霊族の少女も俺を止める。
「しかし、三人とも女の子だからな……」
男の俺が一緒に泊まるというのはどうも……。
「大丈夫です。私は先生を信じていますから」
「私も信じてるよ♪」
「師匠は大丈夫」
元弟子の美少女三人が、信頼を寄せてくれた。
俺がなおも逡巡していると、ルイズが俺の手を両手で握った。
「ここまでお世話になっていて、先生だけを野宿なんてさせられません」
「うん。カインだけ野宿なんて嫌だよね」
「ん。それはダメ」
フローラもエルフリーデも強く同意する。
「先生、どうか……」
ルイズが俺の手を両手で握ったまま笑顔をむける。
フローラとエルフリーデも純粋に俺を信じて、労ってくれている。
胸がジンと熱くなる。
勇者パーティーからは決して得られなかったモノがここにあった。
欲望や打算ではない、純粋な人間同士の信頼。
これ程かけがえのないモノはない。
「うん。ありがとう……」
俺は照れながら言った。
なんだか恥ずかしい。