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雀の声  作者: 鈴木
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大事なこと

「はる、わたしもこれやりたい」


 あまりの衝撃に聞き間違いかと思ったが、どうやら違うらしい。


 すずが喋っている。


「え、なに? これもしかして初? もしかしてめちゃくちゃ記念すべき日に俺立ち会ってる?」

 航太の鬱陶しい言葉も今回ばかりは怒る気になれない。なぜなら本当に記念すべき日だからだ。


「す、すず……これ、やりたいのか……?」

 俺らしくもなく言葉を詰まらせながら聞けば、すずはこくりこくりと頷いた。


 すずが望む通りにゲーム機を持たせてみれば、ボタンやらなにやらポチポチと押しはじめた。だがもちろん使い方は全く分からないので、ゲーム内のキャラクターが変な動きを繰り返している。


 あまりにも突然のことに驚いたままゲーム機を弄るすずを眺めていると、航太がとうとう我慢ならなくなったようで「ハル!! すずめちゃんが喋ったんだけど!?」と俺の背中を強く叩いた。


 その衝撃でようやく意識が戻った。

「いってぇ……」

 腹が立ち、痛みの元凶を睨みつけると「ごめんごめん」と軽く謝られる。


 だが航太がここまで興奮するのも無理もない。俺も珍しく気持ちが昂っている。

 喋ったこともそうだが、特に嬉しいのはすずが俺の名前を呼んだことだ。

 名前を呼ばれることがこんなに嬉しいなんて、正直ちょっと泣きそうだ。


「すずめちゃ〜ん! 航太くんって呼んでいいよ〜!」

 航太がすずに自分の名前を呼ばそうと奮闘しているなか、俺はこの日のことを一生忘れないよう胸に刻んだ。


 その後、父と母にそのことを告げると「なんで録音してないんだ」と責められ、確かにと俺はすずの初笑顔のとき同様後悔することになる。



 すずが初めて喋って以降、相変わらず無口だが意思表示をしたいときに少しずつ喋るようになった。

 俺が食べ物を口に運ぶと「これきらい」と言ったり、テレビを見ていると突然「はる!」とアニメのキャラクターを指差したりする。これは俺じゃない、と言えば膨れっ面になったりして面白い。


 穏やかに日々が流れ、気付けば夏がきていた。


「夏休み覚悟しろよ!」

 期末テストの最終日、脈絡もなく航太が言ってくる。

「なんの覚悟だよ」と聞けば「死ぬほど遊びに行く」と言うものだから、軽く絶望した。俺にとって覚悟が必要だと分かっているなら来るな、と言いたい。


 夏休みに入ると、航太は宣言通り毎日のように我が家に来た。俺以外に友達いないのか。

 当然だが夏休みの課題は進んでいなさそうで、それが少しいい気味だった。


「そういえばさ」

 夏休みのある日、わざわざ我が家に漫画を持って来て珍しく静かに読んでいた航太が口を開く。

 どうせくだらない話だと思い、すずのお絵かきを見守りながら聞く気はないが耳を傾ける。

 航太は特に気にするでもなく続ける。



「すずめちゃんの誕生日っていつなん?」




 サラッと吐いたその言葉を聞いた瞬間、勢いよく航太を見る。航太も俺が突然自分の方を見たからか「うおっ」と声に出し驚いている。



…………すずの誕生日って、いつだよ。

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