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雀の声  作者: 鈴木
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私の声

「……急にどうした?」


 真剣に想いを口にしたつもりだったが、ハルには上手く伝わらなかったらしい。

 普段通りの口調で聞かれ、結構頑張って言ったのにな、と思いながらハルを見ると、何だかハルの様子がおかしい。


「……ハル、手震えてる?」


 口調は普段通りだったのに、ハンドルに掛けられたハルの手が震えているように見えた。

 問い掛けると、ハルは突然手に力を込めハンドルを強く握り「そんなことない」と否定した。


 やっぱりおかしい。ハルは意外と分かりやすいところがあるから、きっと私の言葉の意味に気付いている。


 そう思いハルの顔を見ると、平常心を装っていたであろう顔が段々と崩れていく。

 唇をかみ締め、目も泳いでいる。


「……変なこと言うなよ。驚くだろ」


 それなのに、まるで言葉の意味が分からないかのように振る舞っている。


 明らかに言葉の意味に気付いているのに、肝心なことには触れてこないハルを見て、気付いた。


 私の告白をはぐらかそうとしている、と。


「……私、真剣だよ」


 運転するハルに体を向け言うと、ハルは「危ないぞ」とそれでもまだ平常心を装おうした。


 そんなハルに苛立って「ほんとなの! 私、ハルと恋愛がしたいの!」と、困らせると分かっているのにハッキリと口にしてしまった。


 私の真剣な声にハルは動揺しながらも運転を続け、人通りの少ない住宅街で車を停車させた。


 エンジンを切ると、ハルは力無く体を背もたれに預け、そして小さな声で呟いた。


「……冗談だろ」


 その声は、今までに聞いた事もないくらい低い声で、私は初めてハルに恐怖を感じた。

 ハルも言い方が悪かったと気付いたのか、すぐに「……ごめん」と謝り、そして項垂れる。


 長い沈黙が続き、聞こえるのは虫の声だけ。


 黙り込み動かないハルに、困らせてしまってごめん、と謝ろうと口を開くと、

「……気の迷いだ」

というハルの声がした。


「……え?」


 一瞬何を言ったのか分からなくて聞き返すと、ハルは項垂れたまま「気の迷いだ、すず」と答え、今度はハッキリと聞こえた。


 なんでそんな酷い事を言うんだろう、とハルの言葉に絶望を感じながら「……気の迷いじゃないよ」と答えると、「いや、気の迷いだ」とすぐさまハルが返事を被せてきた。


 否定したのに、ハルはそうだと信じて疑わない。


 どうして?

 どうしてハルは、私の気持ちを否定するの?

 私の想いは、気の迷いで済むほど些細なものなの?


 受け入れてくれなくていい、『兄妹なのにありえない』と笑ってくれていい、きっとそれなら諦められるから。

 だけど……私の想いを否定することだけは、して欲しくなかった。


「……うぅ……」


 我慢出来ず、声と共に涙を溢れさせると、ハルが漸く私を見た。


「すず……」

 ハルは、泣いている私にいつものように手を伸ばし、頬を優しく撫でる。


「……だっておかしいだろ? 俺達は、兄妹なんだから……」

 私から目を逸らしながら、ハルは自信なさげに言う。


 散々自分に言い聞かせてきた言葉をハルが言い放ったことで、「ハルのバカ!!」と私は感情を溢れさせた。


「そんなの私が一番よく分かってる!! だから、振られても仕方ないって思ってるよ!!」


 ハルから聞きたいのはそんな言葉じゃない、と強く言葉を発すると、ハルは私の頬から手を離してまた俯いた。


「……ハルが困るって分かってる、ハルに好きな人がいることも知ってる、それでもこうして伝えたかったのは……」

 ハルのことを、どうしても諦められない自分がいるから。


 そう言葉を続けようとしたら、

「……でも、俺はすずの兄貴なんだよ……」

とハルはまた曖昧な言葉を発した。


 私は、兄妹だから、兄だから、とそれしか言わないハルに腹が立ち、

「っ……私は、ハルのことお兄ちゃんなんて思ったことない!!」

と声を荒らげた。


 その声に、ハルは顔を上げ衝撃を受けたような顔をしている。

 我ながら酷い事を言っていると自分でも分かるのに、涙と共に溢れる言葉はもう止められない。


「ハル、全然聞いてくれない……!! 昔はあんなに気持ちを分かってくれたのに!! 私の気持ちを『気の迷いだ』なんて勝手に決めつけないで!!」


「……私の声、ちゃんと聞いてよ!!」



 強く、そしてまっすぐに放った言葉は、ハルの胸に届いただろうか。


 息を荒らげながらハルを見ると、悲しいのか怒っているのか顔をくしゃくしゃにしたハルがいた。

 そして、そのハルが小さく呟いた言葉は、


「……妹とは……恋愛は、しない……」


だった。



 散々曖昧な言葉で私の気持ちを否定してきたくせに……とまた怒りが込み上げ、私は勢い良く車を降りると前へ走った。


 とにかくハルから逃げたかった。


「すず!!」


 後ろの方でハルの声が聞こえたけど、私は走って走って走り続けた。


 ハルは、追い掛けては来なかった。

こんにちは、鈴木です。


雀の声をお読み頂きありがとうございます。


評価・感想・ブクマをして頂けると励みになりますので、是非よろしくお願いします。


次回もお読み頂けるよう最善を尽くしますので、これからもどうぞよろしくお願いします。

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[気になる点] 血の繋がりもなく両想いなのに全力拒否する理由がさっぱりわからん 
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