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雀の声  作者: 鈴木
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「えっ、はなちゃんと付き合ってた時もハルには好きな人がいたの!?」


 はなちゃんから、ハルと付き合ってから別れるまでのまるで小説のような出来事を聞き、ラストで「ハルくんには、ずっと好きな人がいたんだよ」と言われた事で出た言葉である。


 私が驚愕の表情を浮かべていると、はなちゃんは「ハルくんも気付いてなかったんだけどね」と可笑しそうに笑った。


 ついさっき推測した、ハルが別れた恋人を忘れられない説ははなちゃんの昔話によってあっさりと否定され、じゃあハルの好きな人って一体誰なの、と更なる疑問を生んだ。


「ハルくんは、ずーっと同じ人が好きなの」

 そう微笑むはなちゃんが何だかあまり辛そうには見えなくて、つい「……辛くなかったの?」と聞いてしまった。


「……辛かったよ」

 すごく辛かった、と懐かしさの中に寂しさを混ぜた声で答えるはなちゃんに、私は酷いことを言ってしまったとすぐに反省した。


 私が謝るよりも先に、はなちゃんはまた何でもなかったような表情をして「私、他の女の子より少しだけ特別になれたらいいやって思ってたの」と空を見上げ話し出した。


「ハルくんの一番が誰なのかは最初から分かってたし、その人を越えようとか、私だけを愛して欲しいとかは本当に思ってなかった」


 だけど……と続きを言い淀むはなちゃんを、何だかまともに見れない。


「……だけど、その人のことを考えている時のハルくんが、明らかにただの“特別”とは違う感情でいる気がして……思っちゃったの。『ハルくんが私を本当の意味で“特別”にすることは、一生ないんだ』って」


 私は、はなちゃんを何だと思っていたんだろう。


 いつも優しくて、暖かくて、美味しいクッキーを焼いてくれて、笑顔で私の我儘を聞いてくれたお姉さん。

 はなちゃんの事を、ただそんな風にしか見ていなかった。


 ハルに恋人としての愛情を向けてもらえない、と一人悩んでいたなんて、一ミリも思わなかった。


 自分ばかり「会いに来てくれなくなって傷付いた」とはなちゃんを責めて、はなちゃんの気持ちなんて考えもしなかった。


 亡くなったお母さんのことも含め自分の愚かさを再確認し、胸に新たな罪悪感が芽生えたのを感じた。


「……それでちょっと意地悪な気持ちになって、最後にあんな酷いこと言っちゃって……」


 聞こえるか聞こえないかの小さな声で呟くはなちゃんになんて言ったのか聞き返すと、

「ハルくんも私と同じくらい悩めばいいんだ! って、嫌なことを言っちゃったの。きっとすごく傷付けたと思う」

と内容までは教えてくれなかった。


 一体どんなことを言ったんだろうと思いつつも、はなちゃんの声には後悔のようなものが滲み出ていて、容易く聞くことなんて出来なかった。


「……はなちゃんは、今もハルのことが好きなの……?」


 気になっていた別の質問を投げ掛けると、はなちゃんはフッと笑って「全然!色々と学ばせてくれて、感謝はしてるけどね」と明るく言い切った。


「私、ハルくんと別れてから、我慢して良い子みたいに振る舞うことを辞めたの。たくさん我儘を言って、たくさん怒って、たくさん愛情表現をしよう! って決めて行動したら、素敵な人に出会えて……」


「来年、その人と結婚するんだ」


 はなちゃんの衝撃発言に「ええっ!? うそ!?」と我ながら大きな声を出すと、はなちゃんも負けじと「ほんと!!」と嬉しそうな声を上げた。


 突然のはなちゃんの結婚報告に驚きながらも祝福の言葉を告げると、はなちゃんは幸せそうな笑顔でお礼を言い、

「すずめちゃんも、もっともっと我儘でいいんだよ」

と助言のような言葉をくれた。


 これ以上我儘になったらハルが怒っちゃう、と返せば、はなちゃんは「怒らないよ、絶対」と何故か真剣な顔で断言した。

こんにちは、鈴木です。


雀の声をお読み頂きありがとうございます。


評価・感想・ブクマをして頂けると励みになりますので、是非よろしくお願いします。


次回もお読み頂けるよう最善を尽くしますので、これからもどうぞよろしくお願いします。

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