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雀の声  作者: 鈴木
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大好きな人

 かなり長い期間会っていなかったはなちゃんと再会し、私は興奮気味で「今まで何してたの!? 何で会いに来てくれなくなったの!?」と長年の疑問をぶつけた。


 抱きつかれたまま質問をぶつけられたはなちゃんは、私の勢いに驚いたのか「お、落ち着いて、すずめちゃん!」と困ったような、嬉しそうな声で私の肩を優しく叩く。


 そんなはなちゃんの様子に、自分がまるで小さな子供のようにはしゃいでしまったことに気付き恥ずかしくなって離れると、はなちゃんは小さく笑い声を漏らした。


「すずめちゃん、変わってないね」と優しく微笑むはなちゃんは、あの頃と変わらない綺麗なお姉さんだった。


 小さい頃の記憶は曖昧なのに、はなちゃんのことはよく覚えている。

 ハルのように優しくて、暖かくて、美味しいクッキーを会う度に贈ってくれた大好きな人。


「ずっと会いたかったんだよ!」

 再会できた喜びでにっこりと笑えば、はなちゃんは「……ごめんね」と何故か申し訳なさそうな顔で謝った。


 何故謝るんだろう、と思っていると

「お家まで送って行くよ」

とはなちゃんは再び優しい笑顔で言った。


 久しぶりのはなちゃんに、わたしが大ちゃんとのことも忘れて機嫌よく歩いていると、隣に並んだはなちゃんが「……ハルくん、元気?」と問い掛けた。


 何処か心苦しそうに視線を地面に向けるはなちゃんに、「元気だよ? どうして?」と聞くが、すぐに笑ってはぐらかされた。


「すずめちゃんはもう高校生……かな?」

 私の年齢なんてうろ覚えなんだろうか、はなちゃんは顎に手を当てて思い出す素振りをしながら聞いてきた。

 私の事なんて忘れてしまったのか、と少し寂しく感じながら肯定の返事をする。


「……はなちゃん、なんで突然会いに来てくれなくなったの?」

 改めて最初にした質問をすると、はなちゃんの顔が曇り、そして立ち止まった。

 私も歩く足を止め、質問の返事を待つ。


 別に怒っている訳じゃなかったけど、大好きな人が突然会いに来てくれなくなって、あの頃の私はすごく悲しかった。

 突然いなくなったお母さんのことを、思い出させたから。


 ハルにはなちゃんのことを聞いても「ごめんな」と謝るばかりで、結局どうしてかは分からなくて。

 幼い私にははなちゃんを探しに行くことも出来なくて、すごく不甲斐なかったのを覚えている。


 静かな時間が流れ、はなちゃんは小さく息を吐くとゆっくりと話し出した。


「私ね……あの時、ハルくんと付き合ってたの」

 申し訳なさそうに笑うはなちゃんの言葉に、私は「……え」と驚きの声を漏らす。


「会いに行かなくなったのは、別れちゃったから。薄情でごめんね……」

 心苦しそうに謝るはなちゃんを見つめただ呆然と立ち尽くす私は、はなちゃんにはきっと石像のように映っているだろう。

 冷静に自分の姿を想像しながら、心は動揺で荒ぶった。


 ハルとはなちゃんが付き合ってた?

 なにそれ、そんなのハルから聞いてない。


 確かに、最初の頃はよく航太くんと三人で我が家に来ていたのに、いつからか航太くんがあまり来なくなって、はなちゃんが一人で来るようになったけど……と考えているうちに、ハルはわざと関係を私に隠していたのか、と悟った。


 どうして秘密にしたんだろう。

 私が知ることで、ハルに何か不都合があったの?

 それってどんな不都合?


 考えてみても分かる訳がないのに、はなちゃんが目の前にいることも忘れて考え込んでいると、私は一つの仮説に辿り着いた。


 もしかして、ハルの言ってた“ずっと好きな人”って……はなちゃん?


……いや、でもハルは“その人とは付き合えない”と言っていた。はなちゃんと一度付き合っていたなら、やっぱり違うのか。


 でも……もし、ハルの言っていた言葉の意味が“その人とはもう付き合えない”だとしたら?

 はなちゃんと別れて一人になったハルが、別れた彼女を忘れられなくて恋が出来ないのだとしたら……?


 もし、そうだとしたら……。


「……すずめちゃん?」


 私が目の前のはなちゃんを通り過ぎた何処か遠くを見ていると、はなちゃんが名前を呼んだ。

 呼ばれて漸く意識が戻り、声の主に視線を戻すと何だか不安そうな顔をしている。


「あ……えっと……」


 長年の疑問に答えをくれたのに、何を言っていいか分からず適当に「あはは……お似合いだもんね……」と笑ってみれば、はなちゃんは途端に目を見開いて変な顔をした。

 まるで、おかしなモノでも見たみたいに。


 そして突然、私に問い掛けた。


「すずめちゃん……もしかして、ハルくんからまだ何も聞いてないの……?」


 質問の意味が分からず「何が?」と聞くと、はなちゃんは大きなため息を吐いて項垂れた。


「あぁ……ハルくんの意気地無し……」


 でも私のせいでもあるよね……と呟きながら、はなちゃんは顔を手で覆って「うーんうーん……」と唸っている。


 少しすると、はなちゃんは勢いよく顔を上げ「すずめちゃん!」と改まって私を呼び、真っ直ぐ見た。


「意気地無しのハルくんのことは一旦置いておいて……聞いてほしいの。私とハルくんがどうして付き合って、そして別れたのか」


 そう言い放つその瞳には、何か強い意志を感じる。


 昔は優しく朗らかな印象だったはなちゃんは、強く生きる大人の女性へと変わっていた。

こんにちは、鈴木です。


雀の声をお読み頂きありがとうございます。


評価・感想・ブクマをして頂けると励みになりますので、是非よろしくお願いします。


次回もお読み頂けるよう最善を尽くしますので、これからもどうぞよろしくお願いします。

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