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雀の声  作者: 鈴木
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塩を撒く

 夕食のとき、公園ですずの笑顔を見たことを家族に言うと母はとても喜び、父は驚いたのか食事を喉に詰まらせていた。


 あれからすずの笑顔はまた見られなくなったが、公園は気に入ったようで、休日は毎回二人で公園に出かけた。相変わらず砂場で穴を掘っては埋めてを繰り返す遊びをしている。

「それ好きだなぁ、すず」

 返事は無いが、小さく頷くすず。


 最近は話しかけると頷いたり首を振ったりしてくれるようになった。少しずつ進歩している気がする。


 静かに砂遊びを眺めていると、突然俺の苦手な声が聞こえた。

「えっ……うそ!? ハルくん!?」

 嫌な予感がして声のした方を見る。山口明日香だ。


「なにしてるのぉ? こんな所で会うなんて偶然だねぇ!」

 本当に偶然なのか疑いたくなるような口ぶりで言いながらこちらへ近付いてくる。来ないでくれと頭の中で呟くが、当然聞こえる訳もなく。


 山口の後ろに小学校高学年らしき女児が立っている。妹だろうか。


「今ね、妹とおつかい行ってたんだぁ。妹がひとりじゃ不安だって言うからぁ」

 姉の言葉を聞いて間髪入れずに妹が「言ってないよ! お姉ちゃんが勝手についてきたんじゃん!」と騒ぎ「うるさい!!」と喧嘩が始まった。


 やめてくれ……とうんざりしていると、姉の方がすずに気付き「あ! 例の子?」と聞いてきた。

 特に返事もしていないが、気にする様子もなく「こんにちはぁ」とすずに向かって話しかける。もちろんすずが返事をする訳はなく、黙って砂で遊んでいると「なんか愛想ないね、この子」と言ってきた。


「……は?」


 勝手に航太との会話に割り込んできて事情は知っているはずなのに、よくそんなことが言えるなと頭に血が上る。

 すると妹の方が事情を知らずか、俺とすずの顔を見比べ「なんか似てないね」と言い放つ。

 その言葉を聞いた姉の方はヘラヘラ笑っていて、もう無理だと思った。


 ……今までこの女を鬱陶しいと思いながらも放置していたのは、これといって害がなかったからだ。

 だけど今回はすずがいる。無駄にすずに傷を増やすようなことはしたくない。

 これ以上この女と関わるとすずに害が及ぶ、そう判断した。


「帰ろう、すず」と遊んでいたすずの手を引いて歩き出すと「ハルくん? どうしたのぉ?」と姉の方が着いてくる。

 無視されてるって分からないのか。


 きちんと言葉にしないとこの女は一生付き纏ってくるな、と思い「二度と話しかけんな」とだけ吐くと、漸く着いてくるのをやめたようだった。



 休日明け登校すると、航太が俺の方に来て言った。

「お前女子になにしたんだよ〜! めちゃくちゃ怒ってるぞ!!」


 教室で女たちが固まって俺を睨んでいる。中心にはあの女、山口明日香がいたから恐らくある事ない事言ったんだろう。女はこういうことをするから苦手だ。


 それから女子に距離を置かれる日々が続いた。コソコソと「最低」「顔だけ男」とか聞こえたが、女が話しかけてこないのは案外快適で、航太にそれを言うと「羨ましい身分だぜ」と感傷に浸っていた。

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