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雀の声  作者: 鈴木
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犬猿の仲

 学校が見えてくると、校門の前に私を待っている人がいた。


「すずめ!」


 とびきりの笑顔で私を呼ぶのは、大ちゃんこと中島大智くんだ。


 幼稚園が一緒の大ちゃんとは、小学校も一緒。大ちゃんがお父さんの転勤で引越して一度中学が離れ離れになったけど、高校のオープンスクールで再会を果たした。


 大ちゃんに手を振り隣に立つハルを見ると、すごく不快そうな顔で大ちゃんを睨んでいる。


 昔から何故かハルと大ちゃんは仲が悪く、よくお互いに牽制し合っている。

 小さい頃は大きなハルに怯えていた大ちゃんも、小学校高学年くらいからどんどん男の子らしくハルに喧嘩を売るようになった。

 何で仲良くできないのか、私にはよく分からない。


「すずめ、来るの早いな。まだ入学式まで時間あるぞ」

 大人びたのか、昔の印象と違い落ち着いた雰囲気で話しかけてくる大ちゃんに「大ちゃんこそ」と返事をすると、ハルが私の前に立った。


「よぉ、大智」

 私を背中に隠して、大ちゃんを威圧するハル。

 大ちゃんも負けじと「どうも、ハルさん」と笑顔で返す。


 二人の間にバチバチと火花が見える。


「お前、こんな所まですずを追っかけて来るなんてストーカーじゃねぇの?」とハルが先手を仕掛けると、「いやいや、ハルさん程じゃねーですよ」と大ちゃんがまるで大人みたいな笑顔で言い返す。


 二人とも直接的な言い合いをしないから、よく分からなくてなんだか私の方がモヤモヤしてしまう。


 ブツブツと言い合いをしている二人に嫌気が差し、隙を見て私は一人で校舎の見学に向かった。


 ハルの母校といえば、昔大好きだったはなちゃんの母校でもある。

 一時期たくさん会いに来てくれたはなちゃんは、忙しくなったのかハルの修学旅行以来一度も会えていない。


 ハルにはなちゃんのことを聞くと、何故か悲しい顔をするから聞くに聞けないし。


 私と同じ新入生の人混みを掻き分け探検気分で歩いていると、人がいない裏庭に辿り着いた。

 こんな所まで入ったら怒られるかな、なんて思いながらも結局入ってしまう。


 置いてあったベンチに腰掛け、ふと空を見上げる。


 入学式に相応しい雲ひとつない澄んだ青空、爽やかな風に舞い散る桜、それらを見ているとなんだか心地よくて、動きたくなくなった。


 しばらく日向ぼっこをしていると、

「こんな所にいたのか」

とすぐ近くでハルの声が聞こえた。


 声の方を向くと、すぐ隣にハルがいた。

「探したんだぞ」と優しく頭を小突かれる。

 いつ来たんだろう、と疑問に思っていると「……すずもここが好きなんだな」と小さく呟いた。

 意味深な言葉に感じて「え?」と聞き返せば、ハルは「なんでもない」と口を閉じてしまった。

 なんだったんだろう。


      *


 静かな入学式を終え、配られたクラス分け表を見ると私の名前が載るクラスに大ちゃんの名前を見つけた。

 離れて座る大ちゃんの方を見ると、同じことを思ったのか大ちゃんもこちらを見ていて目が合った。

 同じクラスなことが嬉しいのか、すごく笑顔だ。私も知り合いがいてちょっと嬉しい。


 教室へ移動し担任の先生がこれからの説明をして、今日は帰宅になった。

 帰り道、大ちゃんと同じクラスになったことをハルに報告すると、心底嫌そうな顔をして

「幸先悪いな……」

と不吉な言葉を呟いていた。



 ハルはその日、夕食を終えると「明日仕事だから」と言って一人暮らしの家に帰ってしまった。

 帰り際に「また週末来るから」と頭を撫でてくれたけど、寂しい気持ちが強い。


 一人の家で、ハルは一体何をしているんだろう。

 私といるより一人の方が気楽なのかな。

 だから一人暮らしなんて始めたのかな。

 一人で眠るベッドは、広くないのかな。


 寂しい気持ちは、一瞬で私の心を暗くした。


 そして今夜もまた誰もいないベッドに入り、冷たいシーツが暖かくなるまで体を丸くした。

こんにちは、鈴木です。


雀の声をお読み頂きありがとうございます。


評価・感想・ブクマをして頂けると励みになりますので、是非よろしくお願いします。


次回もお読み頂けるよう最善を尽くしますので、これからもどうぞよろしくお願いします。

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