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雀の声  作者: 鈴木
24/58

この感情の名前は

 華とはぎこちないまま修学旅行を終え、家に帰ると「おかえり!」と嬉しそうなすずが抱きついてきた。

 その元気な声に、俺の心はすぐに暖かい何かで満たされる。


『好きな人と接するときって、もっと幸福感とか高揚感とか……なんかない?』


 突然、いつしか航太が言った言葉が脳裏を過ぎる。

 違う、これはそんなんじゃない。絶対に違う。

 聞こえるはずもない航太の声に、俺は必死に否定の言葉を並べた。



 月曜日、登校するといつものように校門で華が待っていた。

 挨拶をし、二人暫く無言だった。

 なんだか気まずくて俺が目を合わせられずにいると、「放課後、話したいことがあるの」と華が口を開いた。


 別れ話だ、と瞬時に察した。


「……分かった」

 なるべく平静を装い返事をすると、華は優しく笑い「約束ね」とだけ言って去って行った。


 華が別れを告げるのも無理はない。いくら幼い妹を優先するといっても、クリスマスをドタキャンしたり、記念日や誕生日を忘れるような男はどんな女も嫌だろう。


 華に笑顔でいて欲しくて付き合ったのに、全然笑顔に出来なかった。

 傷付けるだけ傷付けた、これは俺の罪だ。


 放課後までの短い時間で自分を戒め、俺は覚悟を決めた。


      *


 放課後、華から屋上へ来てほしいと連絡が来た。

 連絡に気付き屋上へ向かっていると、航太が「待ってるから、一緒に帰ろうぜ〜」と俺の肩を叩いた。

 何か気付いているようだ。


 階段を上り屋上の扉を開けると、風に長い髪を揺らし空を見上げる華がいた。

 俺も同じように見上げてみると、朝の青空から特に変わらない澄み渡った夕空が広がるだけだった。


「こんなに晴れてるのに、これから雨が降るんだって」

 帰るとき気をつけてね、と明るく話す華。


 これからきっと別れの話をするというのに、華は変わらない。明るく優しい、思いやりのある人。

 思えば俺は、華に憧れていたのかもしれないと今更思う。


「ハルくん」

 華は変わらない笑顔のまま、俺の名前を呼んだ。

 あぁ、今から別れの言葉が出る。それなのに俺は、悲しいという感情すら抱かない。

 最後まで酷い男だ、と自分で自分に嫌悪していると、華が言葉を続けた。


「私ね、ハルくんの好きな人……知ってる」


……は?


「……ハルくんの好きな人、知ってるの」



 予想していた言葉とは全く違う、意味不明な言葉に俺は思考を停止させた。

 俺が驚いて固まっていると、華はさらに続けた。


「私、ハルくんがすずめちゃんを優先しても全然嫌じゃなかったよ」

 その声に反応するように俺の停止していた思考がまた動き出し、華の言葉を逃さないようしっかりと聞く。


「すっごくすずめちゃんのことが好きなんだなって思ってた……“お兄ちゃん”として」

 華の声は優しいままで、だからか次に続く言葉に検討もつかない。


「ハルくんの優しいところが好き。

ハルくんの笑顔が好き。

ハルくんの声が好き。

他の女の子には見せない姿を沢山見せてくれて、私はハルくんの特別なのかなって思ってた」


 そうだよ、華は特別だった。

 どの女よりも尊敬していたし、大事にしたいと思っていた。

 結局それは叶わなかったが、他の女に対する気持ちとは明らかに違う。


 なのに、なんで俺は華を好きだと思えなかったんだ?


「……でも気付いたの。私は特別じゃない、ハルくんの特別は他にいるって」


 華が真剣な顔をして俺を見る。


「ハルくん」


 言うな。


「ハルくんの好きな人……」


……言わないでくれ。



「すずめちゃん、だよね」

こんにちは、鈴木です。


雀の声をお読み頂きありがとうございます。


評価・感想・ブクマをして頂けると励みになりますので、是非よろしくお願いします。


次回もお読み頂けるよう最善を尽くしますので、これからもどうぞよろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[一言] この状態って親が悪いよね。 息子がデートに出てるのに、娘が泣いているからって呼び出す。 自分が引き取った娘なのに息子に任せっきり。 それに対して器用じゃ無いんだからって無責任な言葉を放つ。…
[一言]  解っちゃいたけどとても難しくてセンシティブな問題ですよねえ‥‥‥。  主人公がもうちょい強く聡ければ真山さんとうまくやっていけたのだろうか。
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