第4話 腹ペコの魔法使い
4話目です。
誤字脱字などありましたらお願いします。
僕が住まう都市レアルゲント。
そこから東北に鎮座するリムラピス山脈は、魔石の埋蔵量が多く、鉱山資源と共に採掘される。
馬車で一時間揺られれば到着する程に近い。
そのため、採掘された魔石はレアルゲントの石工に手により、闇を照らす光源や料理をする熱源など、多岐に渡り加工される。
魔石は今の人類の生活にとって、切っては切り離せないモノとなる程に依存している。
勿論、人類以外にも魔石の恩恵は与えられる。
今回の討伐対象、ワイバーンも魔石を狙うのだ。数多い人類の天敵の一体。
繁殖期でもあるこの時期は、子に餌や魔石を与えるため、普段よりも獰猛な性格となる。
みな生きるのに必死なのだ。
それなのに僕は──
「オマエさん。ギルドから支給された乾パンが尽きた。中々に美味しかったぞ?」
美味しかったぞ、じゃねーんだわ。どうすんだよ?まだ目的地にすら着いていないんだぞ?
空になった袋を逆さにし、パラパラと細かい残骸を手に取るシルビアは言う。
「いるか?」
「いらねぇよ。どうぞ、お食べなさって下さい」
「そうか、遠慮なく貰おう」
そして、手に平に乗った残骸を口に放り込んだ。
もぐもぐもぐもぐ……。
オマエの胃袋はブラックホールなのか?それとも四次元ポケットか?
「君たち、もう時期着くぞ。私はこのままオロ・ファロス国に行くから、帰りは頑張って見つけてくれ」
馬車の荷台に座る僕たちに向かって、この馬車の主。少し年老いた男は言った。
「どうもありがとうございます。助かりました」
「何を。我々行商人にとって、ワイバーンは天敵だ。むしろ、キミたちを運ぶだけで今後のリスクが低くなる…。我々には嬉しい組織だ」
そう言って彼は続けた。
「お国の連中は、冒険者組合に多額の金を積み、冒険者に周辺の治安維持を任せておる。そして自らは、他国を攻める──つまり対人戦をより特化させる。まぁなんとも……」
きな臭いことだ、と小さく呟く。
各国にとって冒険者とは、金を払えば従う『何でも屋』とも言えよう。
実際、白金以上は、一部のお人好しを除き、より金払いが良い都市を拠点にしている。
高名な冒険者がその都市に居る。
たったそれだけで、街の活気が上がる。揺るがない安心感が金を生む。
彼らは一種のマスコットキャラクターなのだ。
僕には到底出来ない。吐き気がする。
だから僕は、白金以上のランクには興味がないのだ。
「まったくだ。レアルゲント、その学院もまた、国の金で運営している。魔法に夢見た少年少女はいつのまにか、国々の狗に成り下がる。……腐敗だ。そんな状況では到底、学院などとは言えない。兵士訓練所。そう名を変えた方が百倍良い」
シルビアは言う。悲しそうに、空しそうに。
「お嬢ちゃんも魔法使いだな?学院に入籍していたのかい?」
「いや、我が母が学院を嫌悪していてな。母の知識と独学でな」
「そうかそうか。あんな所、行くものじゃないよな」
「そうだな、あははは……」
馬車が音を立てて止まる。
僕は男に礼を言い、荷台から降りシルビアに手を差し出す。
「行こう」
「ああ」
◇◇◇◇
山脈といっても採掘場があるため道は整備されている。
ターゲットは中腹に巣を作り始めているらしい。ここから徒歩で一時間かかるらしい。
「さて」
僕は一息吐き、渇を入れる。
「僕が荷物を背負うから、シルビアは楽々と行ってくれ」
「?なにを言っておる?」
「はい?」
「私が荷物を背負って、私をオマエさんが背負えばよい」
「ど……どうしてですか?シルビアさん?」
「吸血鬼は肉体的な疲労を感じんだろう?ほら、早く早く」
シルビアは両腕を広げて急かす。
せめてワイバーンの住処。人影ない所ならば率先して背負いたい。ここはまだ普通に人とすれ違う。
その人たちからロリコンなどと思われたくない。
だから僕は、ウキウキしている彼女に言う。
「たとえ肉体的疲労を感じなくとも、精神的な疲労を感じるのは確かだ」
「何故だ?こんな可愛い娘を背負えるんだぞ?オマエさんなら褒美だろうに」
「たとえご褒美でも、僕には一定のプライドがあるんだ!」
「嘘をつけ~。プライドが無ければ、今まで最低ランクな訳ないだろうに」
「ヴゥ!!」
「そんなつまらぬプライドなど、麓に捨て行け。あ……」
シルビアは何かを思いついたかの様な表情をし、いきなりその場に屈みこんだ。
「あー痛い、あー痛い。どうやら足をくじいたようだ」
「傾斜も無い、まっ平な地で、どうやって足をくじけるんだ?」
「この身体にまだ慣れていなくてな。あー痛い痛い」
「はぁ。分かったよ、負けた。背負うよ」
「何故そんなに嬉しそうな顔をする?」
「へ?シテイマセンガ?キノセイデハ?」
「はいはい、カッコいいカッコいい」
◇◇◇◇
吸血鬼の脚力と体力もあり、三十分で目的地に着いた。
大小様々な石が転がっていて、視線の先、その洞窟からはガサコソと音が響く。
ワイバーンの巣だ。
「さてさてオマエさん。一人で突っ込むか?」
「あー、いけなくも無いが……痛いのは嫌だな。でもさ今回はシルビアの力を見せてくれるんでしょ?」
「そうとも!このトカゲなど一瞬よ、一瞬」
そういってシルビアは手を前に差し出し、魔法を唱える。
「畏怖の幻聴」
放たれた薄い青色の玉が、洞窟の前に着地する。
「畏怖の幻聴。範囲内の対象が最も恐怖する音……まぁつまり、天敵の幻聴を聞かせる音魔法だ。今は繁殖期、子を守る為に親はその音に向かって、立ち向かうしかなかろうよ」
シルビアの思惑通り、二体のワイバーンが洞窟から現れた。
唸り鳴き、繁殖期ともあって、奴等の怒りのボルテージは最高潮に達している。
全長は四メートル程で、鱗の色は赤黒い。尻尾をゆらゆらと動かし、鋭い眼光をシルビアに向けた。
畏怖した音が偽りと理解し、その発生主を瞬時に見抜いたのだろうか。
「それだけ身をさらけ出せば十分だ!氷剣の豪雨!!」
ワイバーンの頭上。美しい魔法陣から続々と氷の剣が降り注ぐ。
ターゲットから離れているにも掛からわず、コチラまで冷気が襲う。
鋭く冷たい剣先は、ワイバーンの甲殻を貫き、絶え間なく氷剣が降り注ぐ。
その威力は僕が予想していたモノよりも圧倒的だった──
「ふむふむ、やはりトカゲはトカゲだな。さぁオマエさん帰るぞ?まだ私の力量が判らぬならば、オマエさんを五度ほど殺しつくそうか?」
「いえ結構です、分かりました、ありがとうございます」
あの火力で殺されるとか冗談ではない。
シルビアの逆鱗に触れないように丁重に断る。逆鱗、逆鱗……。そうだ、忘れていた。
僕はロングロードを鞘から取り出し、ワイバーンの顎。そこから逆方向に延びる鮮やかな色の鱗をはぎ取る。
「あぁ、討伐の証明をせんといかんのか」
「そうそう。ワイバーンなどの竜種は逆鱗なんだ。しかも、良い素材だからギルドで高く買い取ってくれるよ」
「そうなのか!?トカゲよ、やるではないか!では明日もトカゲ狩りをしよう!!」
「絶滅しちまう……!!」
◇◇◇◇
青銅のランクである僕たちのパーティーが、推奨銀のワイバーン討伐を成し遂げた事もあり色々グダグダしていた。
当の組合は達成できないと踏んでいたらしく、鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしていて面白かった。
組合職員の質問攻めをシルビアの冷ややかな眼光により黙らせ、僕らは夕食の買い出しに出た。
ワイバーン二体+卵四つの報酬はかなりの額となった。
「おぉ、この額なら一週間は過ごせるぞ」
「…それだオマエさん。向上心がまるで無い。ここまで欲の無い吸血鬼は初めて見たぞ?」
「欲しかないよ。今は、シルビアを料理でいかに骨抜きにするか。それしか考えていないや」
「本当にオマエは……。さ、夕飯は何を作ってくれるのかな?」
「なんでしょうね、楽しみに待ってろよ」
野菜がゴロゴロ入ったシチューを作った。
シルビアの評価は良好だった。
明日はいつもお世話になっている職員さんが居るので、面倒ごとは回避できそうだ。
「どうしたオマエさん。寝んのか?ほら来い」
シルビアは一つのベット。その端によけ、手招きで僕を呼ぶ。
ここにきて金を稼ぐ理由が一つ増えた。
広めの部屋を借りる資金を集める。
「あ、じゃあお邪魔します」
睡眠は、明日のパフォーマンスに大きく関係する。
その為に僕はベットに横たわる。
なに?吸血鬼は睡眠など要らない、だと??
要ります要ります。寝ないと死んじゃいます。
あ、山登りの疲労が!!急に眠たくもなってきた!!
ろうそくの明かりが照らす部屋。ベットに事たわる二人。
シルビアは「おやすみ」と言い眠ってしまった。
その後、僕も眠った。
久しぶりに安眠できた気がする。
いかがでしたか?
最後まで読んで頂いて有難うございます。
次も読んで頂けたら嬉しいです!!!
では、また~