第2話 金欠の吸血鬼
2話目です。
楽しんでよんで頂ければ嬉しいです!!
昨日、シルビアの血を飲んだお陰なのか、すこぶる調子が良い。
思考回路。それを大小様々な歯車で動いているとして、今までの僕はぎこちなく動いていた。
しかし、今日は違う。思考が、脳内が凄くクリアだ。
まるで歯車を洗浄し、上質な潤滑油を塗布したような滑らかさ。
これらならば、前世の記憶から持ち出した数学オリンピックの問題。その解き方を閃きそうだ。
前世では、その一生を病院のベットの上で過ごした。
その際の暇つぶしは、テレビとゲームと読書、それから勉強だ。
いつか見たテレビでは、数学の面白さ、数字の魅惑を語っていた。当時の僕はそれに魅了され、定期的に行われた学力テストでは、算数(数学)だけが高得点だった。
と言っても、闘病生活を送る僕は年々その点数が下がっていった。その理由は簡単だ。病気が悪化したからだ。
紆余曲折あったが、僕は数字好きな自分に感謝している。
この世界、おおよその『重さ』や『長さ』の単位は、人間基準の『重さ』『長さ』となっている。つまり、『ポンド』と『インチ』だ。
最初こそ戸惑ったが、瞬時に脳内で変換して過ごせている。
この『数字遊び』は、異世界に来てからの数少ない『楽しい趣味』となった。
が、この得意は突如として僕を裏切った。
「金がねぇ……」
どう考えても手持ちのお金では、到底生活できなかった。何度も計算、何度も確認したが金が足りない。
それもそのはず。僕の収入源は冒険者組合。ギルドの報酬から成り立つ。
しかし吸血鬼という本性を隠している為、大きくは動けなかった。勿論、その分だけ報酬は少なくなる。
だが、その二束三文でも僕は生きれた。
しかし今は状況が違う。
僕はベットでぐっすり眠る伝説の魔法使いを見る。
服サイズが合っていない為、首元から両肩が出ており、位置を変えれば小さな胸を覗き込めるだろう。
「いやいや、何考えているんだ…僕は……」
シルビアは寝る前に言った。
「私は少し特殊な人間だから寝ないと死ぬ。ご飯もな。人間と同じように、成長もする。十年後見ておれ!ナイスボディになるからな!!」と。
そのナイスボディは滅茶苦茶気になるので、シルビアにはしっかり食事を摂取してもらわないといけない。
つうか服も買わないといけない。
だから──
「金がねぇ……」
机に硬貨を出し数え、僕は再び言った。
服を一式買うだけで財布の中身はカラになる。ギルドの依頼をこなし金を貰わないと生活できない……
そんな事をグルグル考える内に、空はだんだんと明るくなってきた。
もう時期、朝になる。まずは、あり合わせで朝食を作ろうか。
話はそこからだ。
◇◇◇◇
「うむ、美味しいぞ!!オマエさんの料理。私の一生のパートナーとして鼻が高い」
料理を振舞うのはこれが初めてだった。彼女の口から「美味」と出て僕は安心した。
「そうか。口にあって嬉しいよ。…あ、そういえば昨日、僕が吸血鬼に成ったときの話をしたんだけど、その時に『真祖』?って聞きなれない単語が……。その意味を教えて貰ってもいいか?」
「あー、そういえばそうだな。了解した」
シルビアは木製のスプーンを空の皿に置き言う。
「オマエさん。吸血鬼の繁殖方法を知っているか?」
「繁殖…。分からない…現に僕が、突如となくそう成ったから」
「うん、そうだな。では、簡単な解説をしよう」
机に肘を着き、両手を顔の前で組んだ。まるで何か悪いことを企むかの様に。
「吸血鬼は、対象の首を牙で噛み血を吸う事で繁殖する。と、いっても童貞・処女しか吸血鬼にならん様がね」
「へぇ……」
僕は昨日の一件を思い出す。シルビアはこう言った。『吸血鬼には成りたくないからな』と。
それはつまり……
「おい、何考えているんだ?」
「いえ!何も!!」
はぁ、と少女なのか幼女なのか。彼女にため息をつかれる。
「まぁいい…続きを。そうやって吸血鬼は血族を増やすんだ。しかし、その大元。最初の一体はどうだろうか?」
「まさか…僕と同じなのか?」
「そうだ弟子よ。それを最初の一又は、真祖と呼んでいる。まぁ、長く生きた私でも、持ちうる情報は少ないがね」
「ファースト・ワン……真祖……」
そう呟く。今まで生きてきてその様な単語は初耳だった。
単に、吸血鬼の情報を敢えて集めていなかった所為だと思うが……
「その真祖たちはその昔から、古竜の分け身と言われていてな。そのバカげた能力、怪力、再生力はまるで古竜のようだと、な。故に吸血鬼を狩る生業のハンターたちは、最初の一、真祖の事を古竜の落胤と言っておる。しかしまぁ、彼らと出会う事はまず無いが…覚えといて損は無い」
「ドラクル……専門家……」
この世界ではその昔、人間たちと古竜は争った。結果、多大な犠牲を払い人間たちの勝利となった。
その古竜は別名ドラコと呼ばれたそうだ。きっとそこから派生され、呼ばれる様になったのだろうか。
「ま、基本的にこんなもんだ。さあさあ、食事を再開しようじゃないか!お昼は何を作ってくれるんだい?」
「おいおい…お昼まで作らないといけないのか?」
「そりゃあ当たり前だ。オマエさんの料理は美味しいからな!こんな温かく、美味しい料理は実に五十年ぶりだ」
シルビアは両手でお椀を持ちスープを飲む。
テーブルマナー。まぁいいか……。
て言いますか、最後に棘のある言葉を置いて行かないでくださいます?心が痛む。
「シルビア、今日一日の計画を朝食を作りながら考えたんだ。食べながら聞いてくれ」
「おうおう、聞かせてもらおうか」
「まず、シルビア。キミの服を買いに行く。いつまでも僕のシャツ姿じゃ…目のやり場に困る」
「何を今更。私の裸をまじまじ観察したくせに」
「うるせぇ!あれは不可抗力だったんだ!」
「またまた~」
ゴホンと喉を鳴らし僕は続けた。
「その後、ギルドに向かう。適当なクエストを達成して報酬を貰う。その後、ご飯」
「まぁいいが……お昼ご飯は?」
「……」
僕は苦し紛れにシルビアに言う。
「お金が無いんです。全く。カラなんです」
「は?」
いままで見たことの無い顔をして彼女は言った。
そして──
「あぁ、私も銭稼ぎを手伝えと?」
なんだその感じの悪い言い方は。銭って何だ、銭って。
「そうだ。…ギルドにはランクがあって、僕は最低のブロンズなんだ。ブロンズだと討伐系の報酬が良い依頼。その単独行動は許されていなくて…。二人以上なら許されているんだ。その所為で、僕はいつも金欠なんだ」
「そうなら早く言え、私のパートナーだろうに……。最低、ブロンズか。ふふふ、面白そうだ。また一から駆け上がるのは」
「ありがとう、シルビア。お礼は料理でいいか?」
「十分すぎる」
金欠の吸血鬼は、シルビアの服を買いに店に足を進めた。
こうして、グレイブの新たなる二日目は幕を開けた。
お疲れさまでした。
前回より文字数が少ないです。仕方ないね。
今後も、この程度の文字数で行きたいと思います。
主人公は料理が好きです。
その理由は、テレビでその関係の番組を見、レシピを書き覚えていたからです。
将来の夢(?)はパティシエでした。
一番驚愕した料理レシピは、丸ごとのブロッコリーにたらこのソースをかけたものです。
以上になります!!
次回も読んで頂ければ嬉しいです!!
では、また~