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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ちょちょぷりあんの歩み

ケースファイル ちょちょぷりあん

作者: 滝翔


ゲソが墨を吐いたような 夕陽がなぞる幽暗な路地裏に奴は現れる

表参道を歩く陽気な住人は気付かない

街頭に凭れて寝ている酔っ払い 負けじと梯子する呑兵衛

それらは見られていた ちょちょぷりあんに見られていた


「先輩! ここで犯人ホシの目撃情報が」


「よし! 行くぞ!!」


ネオンの光が 仕事で疲弊した社畜共の生気を吸う歓楽街で

建て増しの廃墟へと 二人の刑事が姿を消した


「ここが奴のねぐらなんですかね?」


「そうだな…… その玄関を潜ったと言っても良い

ここで〝ちょちょぷりあん〟の整理でもしとくか」


二人は足を止めて 互いの頭の中から捜査資料を開いた


「ちょちょぷりあん 性別不明 出自も不明

腐敗した卵の匂いに釣られた謎の有機生命体が若い被害者女性と接触

被害者が交番に駆け込んで事情を話すも

現場の監視カメラには映らず情報不足で捜査は打ち切り

それから三十年間に渡って似た被害者が続出

都市伝説にまでなって 一躍犯罪界のレジェンドだ」


「ホントふざけた野郎ですね…… 

女性には外傷は無し 聴取によると〝確認〟という言葉が脳裏に焼き付いているそうです

そこから察するにちょちょぷりあんは露出狂の変態

おまけに中二病ですね」


「あぁ…… 何が謎の有機生命体だ ただの家畜だろうが……

お上から降りてきた裏取りの証拠一式もアテにならねぇ」


「こんな永久凍土の事件を追いかけてるのは俺達くらいですよ先輩……」


「……ちゃんと飼い慣らしとけって話だよ ったく」


一連のちょちょぷりあんを再確認した刑事達の耳に

ここ一階より三階にて奇妙な物音がした


「奴だ…… 行くぞ!!」


「はい!」


颯爽と階段を駆け上がり 音がした扉のノブに手を付ける


「鍵が掛かってやがる…… 鍵穴もねぇのに……」


「ちょちょぷりあんの成せる業ですかね?」


「30年も眠る事件を解決しようってんだ…… 上等だこの野郎!!」


扉を蹴り破り 中へ入る二人はライトを照らしながら銃を構える


「警察だぁ!! 出て来いやぁ!!」


「先輩!! こっちです!!」


重なった段ボールに隠れた新米刑事の足下には


「こりゃぁ…… ちょちょぷりあんじゃねぇか……」


「共食いですかね……? それとも宿主を入れ替えたか……」


「汚ねぇ食べ方をしてやがる…… 私怨か?」


ちょちょぷりあんによる変死体が転がっていた

身の回りを調べている先輩刑事と 署に連絡する新米刑事

長居しながらも色々と状況が分かってきた


「まずこの仏さんは犯人ホシの借り物だったに違いない

30年という歳月の中で 奴がどうやって逃げ切っていたのか

これが答えみてぇなもんだよな 組織犯罪対策課そたいもその方向で動いていた筈だ」


「ちょちょぷりあんが人間に対して躊躇しないのは 頷ける話ですからね」


「ただうちの部署にはその情報が降りて来なかった

手柄の取り合いしてるご時世 上を出し抜いて県警はその先に進めやしねぇ

……警視庁に悪友がいて助かったぜ」


「……ってことはちょちょぷりあんは また姿を変えてるんですかね?」


「追うぞ」


屋根を伝って再び歓楽街へ 到着する頃には街中で新たな悲鳴が

急いで声のする方へ走る二人は 派手な装飾が施された外観の店へ

二階のホールでは食事中に襲われたであろう 恐怖に染まる瞳の若い女性客がへたりこんでいた


「おい! 奴は…… ちょちょぷりあんは?!!」


「……すごい ……ちょちょぷりあんでした」


彼女から情報を聴き出せた先輩刑事とは余所に 新米刑事からの叫び声が上がる


「いぃ…… いました先輩!! ちょちょぷりあんです!!」


指差す方を見やる先輩刑事 テーブルの上に乗るステーキ皿からは香ばしい煙が立ち上っていて


「これはシャトーブリアンだバカ!! ちょちょぷりあんとの見分けもつかねぇのかテメェは!!」


「あ…… すいません!!」


「お前にA5のちょちょぷりあんはまだ早いみてぇだな!!」


「うす…… 勉強します……」


店を出て次にちょちょぷりあんが向かう目星は付けていた

中心地より離れた目抜き通りのお土産屋【お団子坊ちゃん5号店】

避難している店員達の確認を済ませたところで ドアを蹴り破り突入


「……やってくれたな」


「先輩見て下さい!! 品物の全てのお団子が黄色い部分だけ食べられています!!」


「見りゃ分かる…… 奴は厨房か?!」


食堂のカウンターから奥を見る二人の目には

逃げ遅れた女性従業員に 何かを見せ付けては前のめりのちょちょぷりあんの姿が


「いい加減しろ! 変態野郎が……」


「ぷりっ……?!!」


怯えた様子で再び逃げるちょちょぷりあん

屋上まで刑事に追われると いよいよ逃げ場が無い


「もういいだろ…… 正体見せろや!!」


「……」


観念したのか その身体は脱ぎ捨てられた

ぽわぽわとした青い球体から伸びた 雑草のような触手に似た脚が弱々しく空を掻いている

目は見当たらず 変わりに大きな口が口角を上げて歩み寄ってきた



〝 ぷりっ…… ぷりり…… 〟



「こいつがちょちょぷりあんですか先輩?」


「あぁ…… 俺も生を見るのは初めてだ…… 青色だったんだな……

まずはこいつを引き取ってくれる機関まで連行する

十本足だ 逃げられねぇよう 一束に纏めとけ」


人間はちょちょぷりあんの言葉を理解出来ない

しかしちょちょぷりあんは刑事達の会話をしっかり聴いていた

それ故に 転がる死体に再び寄生するも


「ナ…… ナナ…… ナナナナ~……」


刑事達からすれば それは胸糞悪い光景だった

今まで機能していた死体は 一度は寄生体が離れてしまったが為に

完全に白目を向いたゾンビの様になっていた


「……ハァ 頼むから仏さんから出ていってくれねぇか?」


先輩刑事はちょちょぷりあんに銃口を向けた

死体は寄生体の存意かどうか 白目部分からは大量の涙が


「ナ…… ナ…… 仲間になって下さい……!」


「はっ……?」


「共生する時代でしょ? 差別しないで下さい…… 食用にしないで下さい……」


「チッ…… 言葉しゃべんじゃねぇよぉ 差別よりも偏食になるだろうが!」


引き金に人差し指を置く刑事を前にして

ちょちょぷりあんの現状に 救いは無い


「自分が…… 自分がちょちょぷりあんだからですか……?!

それとも…… それとも自分が変わっているからですか?!」


「悠長な言葉で泣き寝入りせんでくれ…… 牛も羊も当分食えなくなっちまう……」


先輩刑事は戸惑っていた

そんなとき 乾いた銃声が耳に届く


「躊躇するほど年老いてしまったんですか先輩?」


「余計なことを…… でもまぁ 無事に明日からも肉が食える」


新米刑事の銃撃は 動く死体の核を寸分狂わず射貫いていた

ピクピクと微かに口から息を吐くちょちょぷりあんは

空よりも遠い向こうを見つめている 目も無いのに


ーー大神様の遣いの人は…… 優しかったな…… 人間じゃないからかな……

仲間…… 仲間…… 皆仲間になってくれたのに……

人間は自分達を潰して…… そして食べちゃう…… 悲しいよ……


死体が動かなくなったことで ようやく署に報告出来る二人は

心臓部から出血と共に出てきたちょちょぷりあんに黙祷を捧げていた

青い球体は数秒で凝血した赤い液体に包まれて か細い脚すら動くことはない


「大変です先輩!!」


「またちょちょぷりあんか?」


「えぇそれが…… 数日前に若い女性と一緒に海外に渡航したそうです!!」


「おいおい…… ちょちょぷりあんはうちの監視下だろ 上の国から打診が来るぞ?!

とにかく発見した変死体は全部回収して捜研に回す 急いで手配しろ!」


新米刑事を下に向かわせて 独り残った先輩刑事は煙草を吹かして繁華街を一望している


「もっと骨のあるちょちょぷりあんはいねぇかなぁ…… 

ここまで専門的に奴等を追ってると…… 今度アイツを連れて食いに行ってみっかな

俺もそろそろ熟年らしく奢ってやるのも粋なのかねぇ~~」


柵に手を付けて耽っている刑事の背後には

血だらけの球体が 自分を赫く染める液体を吸収していた


〝 ぷり…… ぷりりりり…… ヤッパリ…… 独りでいる方が平気なんだなぁ~…… 〟


新米刑事が屋上に戻ってくると そこには先輩刑事の姿は無く

残された変死体だけが転がっており

それに付着していた愛くるしい球体の ちょちょぷりあんもいなくなっていた



ちょちょ ぷりりっ……


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[良い点] ちょちょぷりあん、わけわからんけど笑ったw
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