表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

仙人の技

作者: 雉白書屋

 山奥、道なき道を歩く男。伸びた枝を煩わしそうによけて明るい方へ。

木々を抜け出た先は崖、そして荘厳な滝。それを見下ろす。

かなりの高さだ。下が水と言えど落ちて無事で済むかわかったものではない。


「これこれ、こんなところで何をしている」


 その声に男はビクッと背筋を伸ばした。

こんな人里離れた山奥に人がいるなんて思いもしなかったのだ。

 振り返るとそこにいたのは長い白髪、長い白髭。

人が見ればそれとわかる見た目、そう、仙人なのだ。


 男が戸惑っていると仙人はにっこり笑った。


『ふふふ、驚いて口も利けないか。まあ、無理もない。察しの通り、ワシは仙人だ。

しかし、かしこまらなくてもよいよい。喋らずともこのように念じればお互い通じる。

まあ、これもワシが持つ数ある能力の一つに過ぎないがな』


 仙人はどこか自慢げな顔をした。それもそのはず。気が遠くなるほど長い間

たった一人でこの山で修行を続けており、身に着けたその能力は多種多様。

しかし、見せる相手がいなかったのだ。


『はぁ。どうです? 通じていますか?』


『うむ、その調子だ。どうだ? すごいだろう』


『ええ、まあ……』


『まあだと? じゃあこれはどうだ? 空中浮遊だ』


『おー』


『おーって……。なんだか張り合いの無い奴だな。

じゃあ、これならどうだ。その滝を見ていろ……どうだ!

水を自由自在に操れるんだぞ。それだけじゃない、風も! 木も! 

この土もそうだ。自然の物ならこうして操れるのだ』


『わあ』


『なんて奴だ……。無気力だ無気力。まったく、時代が流れ、服や流行が変わっても

この山に来る奴は似た者ばかりというわけか。

お前もどうせあれだろ? 自分の人生が嫌になって来たんだろう?』


『……はい』


『やっぱりな。その覇気のない顔。まったく、なんなんだそれは?

まあいいか。話してみろ、聞いてやる』


『その……実は私、いわゆる業界人でして。

タレントをプロデュースするのが仕事なんですが、原石を見つけることはおろか

他事務所に引き抜きなどされてうまくいかなくて……。

それで気分転換、あるいはいっそ死んでしまおうかと……

それでこんな辺境にまで来たんです。

とりあえず人目につかない場所にと思って……』


『業界人? タレント? 下界の話はよくわからんが、それで死なれるのも迷惑だ。

そのゴテゴテしたへんてこな服。自然に還るとは思えん』


『す、すみません……』


『まあいい。ほら、お前もこの山で修行していけばいい。

食べ物の心配はない。木の実や樹液。

それにワシくらいになればこの空気で腹を満たせるのだ』


 仙人は上を見上げ鼻から大きく息を吸った。


『あの……』


『ん、なんだ? すごいか?』


『ああ、いえ。その、修行すればどうなるんですか?』


『どうってなぁ。さっき見せたみたいなワシの技をお前も使えるようになるのだ。

魅力的な話だろう?』


『はぁ、その、こういう事ですか?』


『ん? ……う、ふぉおおおおお!』


 男がそう言った直後、仙人の目の前に現れたのは紫色の炎の蛇。

それだけじゃない。水しぶきを上げ、何もない空間から鯨のような生物が飛び出し

さらに花火まで上がった。


『こ、これは一体』


『この装置から出た映像です』


『装置? 道具か! 確かにいつぞやかこの山の遭難者が

指先一つで光を出したり消したりしていたな。

しかし、下界はもうそこまで技術が進んでいたのか……。

成程。触れても実体はないが、ワシより派手ですごい……。

一人、取り残された気分だ。ワシは今まで何を……』


 仙人は溜息をつき、耳をいじり始めた。それは彼の昔からのただの癖だったが……。


『あ、あ、あ、すごい!』


『え、何がだ?』


『それです、それ! すごい! 中にしまえるんですか!?』


『え? この耳を畳んで耳の穴の中に入れるやつか?』


『はい! すごい、すごいですよ!』


『そ、そうか! ふふん、ちなみにもっと小さくできるぞ、それにほれ、もう片方も』


『お、おおお! すごい! これなら人気出ますよ!』


『ほ、本当か? 仙人の力は関係ない気がするが……』


『ぜひ、一緒に来て下さい! お願いします!』


『下界にか? うーん、まあ世間を知り、見識を深めるのも修行の一つかな。よし、行ってやろう』


『ありがとうございます! どうぞ、乗り物はこちらです。

今の時代、科学技術の他に色々な特技を持った奴が

たくさん出て来たので困ってたんですよ。

でも、あなたの芸は唯一無二です! 必ず私が売れっ子にしてみせますよ』


『ふふん、まあお前も大船に乗った気でいろ。ん、それが現代の乗り物か。

やれやれ、知らないことが多すぎるな』


 二人はとめてあった宇宙船に乗り込み、あっという間に地球を飛び出したのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点]  面白かったです。展開が読めませんでした。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ