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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

イケメン系女子は腐女子な親友とBLゲームの世界に転生してしまい困っています!



初BLもの書きました。

作者はBLゲームしたことないので、ご了承ください。

試し書きです。


ラブコメ書けたらいいなぁーなノリで短編書き上げました!




 今日も今日とて、隣を歩く親友は腐っていた。


「はぁー。もう尊い! やっぱり王道ルートは幼馴染だよね!? (しゅん)×(こう)がいいっ!! いや、光×(そう)もいい!! 長年の友情を越えた先の愛……いいのよ!! でも欲を言えば、幼馴染サンドルートがあれば幸せ死ぬ!! なんでないんだろう……俊×光×颯も全然ありなのに……ぐふふっ、幼馴染サンド最高!」


 熱く語るのは、今どっぷりハマって片っ端からルートを全てを攻略した上に二週目に入ったというBLゲーム。しかも15禁らしい。


「ねぇ! (まこと)もやって? やってみて!?」

「いや、だから、私はどちらかと言えば、乙女ゲーム派だし……」

「先っちょ! 先っちょだけでいいから!!」

「なにそれ」


 私は呆れて肩を竦める。

 私も一応オタクの分類に入るだろうけれど、恋愛シミュレーションゲームの全てのルートを攻略してやるという熱意は持ち合わせていない。ただ、気になった外見のキャラを攻略するのみ。ハッピーエンドを迎えられたら、そのままお蔵入り。

 基本的には、少女漫画を好むオタクなのは、私。BL系を好むオタクなのは、親友。


「きゃー! 真先輩だ!」

「ほんとだ! 先輩!」


 向かいの道を歩いていた後輩であろう女子生徒達が、私に気付いて黄色い声を上げた。

 私はにこりっと笑って、手を振る。また悲鳴が上がった。


「相変わらずの人気ですなぁー」


 黒いフレームの眼鏡をくいっと上げて、親友はにやつく。


「流石、イケメン系女子」

「はぁ……私はイケメンな彼氏が欲しいのになぁ、なんで自分自身がイケメン系になるかなぁ」

「日頃の行いのせいだよ? 真」

「…………はぁ」


 私はもう一度、ため息を吐いた。

 イケメンとの恋を夢見ているのに、女子生徒の王子様的存在になってしまっている。

 どうしてこうなったと言いたいところだけれど、確かに昔から何かと女の子に手を差し伸べてきた。

 具合が悪そうに蹲っていればお姫様抱っこをして保健室や病院まで運んでいたし、持ち前の運動神経の高さを利用しては木の上の猫を助けたり、子どもの風船を取ってあげたり、笑いかけただけで「イケメン!」と言われるような中性的な顔立ちに成長。

 高校に入って、高身長でバスケ部のキャプテンを務めていることもあり、なんだか人気が高まった気がする。


「はぁ……真が本当にイケメンなら、色々と妄想が捗るのになぁ……」

「君の腐った妄想に私を使わないでもらえるかな? 日南(ひなみ)


 真似たようにため息をつかないでほしい。


「ていうか、BLにだってイケメンが出るんだよ? イケメン祭りだよ? 眼福だよ???」

「そんな無垢なふりした顔で首を傾げられても……日南が腐っている事実は変わらない」


 日南は中学からの付き合いで、一番の親友である。彼女もそう思っているからこそ、自分が愛しているゲームを熱烈に勧めてくるのだろう。

 無垢なふりして不思議そうに首を傾げても、腐り具合を知っている私には効かない。


「乙女ゲームもBLゲームも同じ恋愛シミュレーションゲーム……つまりは同類! 同じなのだよ!」

「いや、違うから! そもそも、そっちは15禁でしょ? この前見せられたBL本でいっぱいいっぱいだから!」

「ちっちっちっ! 真はまだまだ子どもだなぁ……私としては18禁でもよかった……もっとずっこんばっこんお盛んなシーンを投入してほしかった!」


 白昼堂々となんでそんなこと口に出来るかなぁ……。

 いつもなら窘めるところだけれど、私は赤面した顔を覆うことで精一杯だった。

 私には、刺激が強すぎる……!


「あっ、真は純真乙女だったね! ごめんごめんてへっ!」


 思い出したように言うけれど、どうせまた反省の色なしなんだろう。


「ねぇ、本当にやってみない? ほら、裕之(ひろゆき)先輩が好みだって言ってたでしょう? 裕之先輩ルートだけでもさぁ? やってよ、お願いぃ~! 『光る純愛学園』!」

「いや、乙女ゲームとは絶対違うでしょ? 楽しみ方が絶対に違うから。私はヒロインになりきって楽しんでたけれど、男主人公になりきるって難しいでしょう――――!」


 手を掴まれて揺さぶられた私が言い返した瞬間、日南より奥から大きなトラックが迫っていることに気付く。

 危ないと日南の肩を掴み、押し飛ばそうとしたけれど、間に合わなくて――――。

 ――――多分、私達はそこで死んだのだろう。



 私――――いや、俺は、春野宮光一(はるみやこういち)として、生きていた。



 いつの間にか、その人生を送っていたのだ。

 そして、三人の幼馴染と仲良く同じ高校に入学した瞬間。

 頭が冴えわたるかのように、記憶が走馬灯のように蘇った。


「「『光る純愛学園』……」!」


 それは何度か見せられたオープニングと同じ光景だ。桜が縁取るように花びらを舞い上がらせる白い校舎。前庭に円形の花壇がある。間違いない。

 そして、驚く。同時に、声に出ていた隣の幼馴染と顔を合わせた。

 何故か、わかったんだ。相手はずいぶん容姿が変わってしまったが、それなのに、わかってしまった。

 彼女もまた、同じく記憶を取り戻したことを――。


「日南!?」「真!?」


 互いの名前を口にして、やっぱりと確信する。そして、ひしっと手をギュッと握り合って、涙ぐんだ。




 それから三日経った放課後、俺は後悔していた。口走るんじゃなかった。気付くんじゃなかった。

 頭を抱えて机に突っ伏した俺の隣に、椅子を持ってきて座る美少女は、前世と変わらず熱く語る。


「で!? 誰ルートに進む!? 悩むなぁ! 私としては幼馴染のどっちかを推すんだけれど、やっぱり真の好み的に、裕之先輩に進む? 別にいいけれど、真が決めることだから。でもやっぱりね、私としては何が起きてナニされたか、報告してほしいの。生々しく!」

「真呼ぶなよ。陽菜(ひな)……今の名前で呼ぼう?」


 美少女の幼馴染としてちょっと誇っていたのに、もう腐りきっているわかった今、全然自慢に思えなくなった。

 幼稚園からの幼馴染の一人。三浦(みうら)陽菜。

 黙って笑っていれば、美少女だ。黒のセミロングヘアに黒い瞳に映えている白い肌。もちろん、顔立ちは整っていて、目は大きくて上目遣いされれば、男子はイチコロだろう。細身でか弱そうで、俺としても守ってあげたくなっていた。腐っているとわかっている今でも、そこは変わらない。


「俺は絶対にBLの道を進まないぞ。何度言えばいいんだよ……」

「ふっ……甘いな、光一」


 陽菜は息を吐くように笑う。


「ここはBLゲームの世界! そしてあなたは主人公・春野宮光一! つまり光一はBLすべく生まれたのよ!!」

「うわぁああ! いい加減にしてくれよ!!」


 人差し指で陽菜が突き付けてくる現実に耳を塞ぐ。

 わー! わー! わぁああっ!

 そんな現実認められるかーっ!!


「全てのフラグをへし折って、俺は普通に女の子と付き合って結婚して親に孫を見せるんだ!」

「元イケメン系女子とは言え、女の子が恋愛対象になるの?」

「ぐぅっ」


 正直、微妙なところである。なんで前世の記憶が蘇ったんだ。


「元イケメン女子にして、イケメンの面食いだったあなたが、本当に女の子を愛せるのかしら?」


 あ、悪魔の囁きだっ!!

 確かに面食いだった!! イケメンが好物だった!! 今は男でも、イケメンにときめく自信しかない!!


「俺だって、可憐な美少女に生まれ変わりたかった……なんで逆なんだよ……変わってくれよぉ」

「ふっ……可憐な美少女で、ごめんね?」


 さらっと艶のあるさらさらなセミロングヘアを靡かせて、自信満々に微笑む陽菜。

 にっくたらしい……。


「絶対神様が間違えたに決まってる。陽菜だって、俺のポジションがよかっただろう?」

「何言ってるの!!」


 陽菜がガタンと立ち上がった。

 え。怒った?


「私だって受けの真っ赤になって涙浮かべた顔を見下ろしてずっこんばっこんしてみたいがっ! でもこの主人公は受けなの!! 攻めの顔も見上げて悶えたいけれども!! でも腐女子として! 私は見る側でいたのよ!!」

「声でか!! 相変わらずかっ!!」


 なんなのそれ!? 腐女子のポリシーなの!? とにかくそんなことを叫ぶんじゃありません!!

 私は腕を引っ張って、座り直させた。


「光一がBLフラグを全て折るつもりなら、私もあらゆる手を使って異性の恋人が出来ないように全力を尽くす」

「真顔で言われると怖い……」

「本気だから」

「怖すぎる……」

「私を敵に回さないでね?」

「こわっ」


 目を細めて微笑む美少女。目が笑ってないのが怖い。

 前世に引き続き俺はそこそこモテるんだけれど、どうもこの美少女がそばにいるせいが、今一歩、好きになるほど仲良くなる女子がいない。

 陽菜が全力を尽くせば、俺の周囲から女子生徒が消える可能性が十分あり得る。怖い。


「『光る純愛学園』って、どういう始まり方だっけ? 何度も聞いたのに、朧げ過ぎて思い出せない……」

「…………」

「急に静かになるのやめて? おいこら、教えろよ!」

「いや! 光一のえっち!」

「なんでそうなるんだよ!!」


 つい前世の距離感で、頬を潰すように掴んだら、叫ばれた。


「え、何してんの? 光」

「……」

「颯太! 俊! てっきり先帰ったかと思ってた」


 幼馴染二人が、教室のドアのところに立っている。

 日向颯太(ひなたそうた)。オレンジ色の髪と明るいブラウンの瞳を持つ。確か、わんぱくで元気はつらつな、ゲーム内、唯一の受けだった。そんな情報、思い出さないままでいたかった。大切な幼馴染のそんな情報、知ってしまって申し訳ない。

 青山俊(あおやましゅん)。青黒い髪と物静かな青い瞳を持っている。クールで無口。攻めである。

 二人ともイケメンだけあって人気もそこそこあるけれど、颯太はどちらかと言えば可愛い枠に入れられて、俊の方はクールすぎて人と距離を置くから、人気は俺に集中してしまっているらしい。そんな設定だって、前世で聞いた覚えがある。多分、そのうち、王子様だってなんて、呼ばれるんだろう。


「一緒に帰ろうぜ?」

「私は急用……」

「ついていくよ、陽菜」

「んー。そうだな、一緒に帰ろうぜ!」

「……」


 何かと俺と颯太と俊を三人だけにしたがる陽菜を確保。颯太の太陽みたいに明るい笑顔で、しぶしぶ陽菜は諦めた。そして四人、仲良く帰った。


 それから、三週間が経つ。

 特に、何も起きていない。不思議なほど、何もない。不気味なほど、何もない。

 身構えていたのはバカらしいが、いつ何時、イベントが起きるかわらないため気が抜けなかった。

 これは嵐の前の静けさってやつだろうか。

 俺と颯太と俊は中学と引き続きバスケ部に入って、部活動に励んだ。か弱い美少女の陽菜は、美術部。

 部活が終われば、昇降口の前で待ち合わせして、一緒に帰宅。


「春野宮くんだー!」

「わぁ、王子様!」

「きゃー!」


 その繰り返しをしていたら、いつの間にか俺だけ「王子様」と呼ばれる学園の人気者になっていた。ちなみに、陽菜は「お姫様」らしい。

 やはり、ずるい。ポジション変えてくれ。頼むから。後生だ。

 思えば、幼馴染のイケメン三人と一緒に登下校してもらうってシチュエーション。羨ましすぎる。

 そう言えば、一時期だけど、陽菜を取り合っていたこともあったっけ。幼稚園の頃だ。そのあとは、特に喧嘩することもなく、仲良くしていたわけだけれど……。

 ……そんな男同士の幼馴染が、恋愛関係になるってありえるのか?

 よくわからない。くっ。その経緯をしっかり覚えておくんだった。絶対前世で聞いたんだけどなぁ。

 部活が休みの水曜日。いつもと同じように、四人揃って一緒に帰っていたら。


「なぁー、光。暇だから、光の家で遊んでい?」


 颯太が下から覗き込むようにして、明るく訊ねてきた。


「ん、俺も」


 自販機で買ったストローを差すタイプのコーヒー牛乳を飲みつつ、俊も手を上げる。


「いいよ。陽菜も来る?」

「私は今日お母さんと夕飯作る約束してるから、また今度」

「そっか」


 陽菜とは、俺の家の前で別れた。

 俺の母に挨拶した二人を連れて、二階の部屋へと入る。特に気にすることなく、二人の前で着替えた。しわがついたら、嫌じゃん?

 二人も気にすることなく、ベッドの端に座ったり、ベッドに凭れて床に座ったり。

 これで恋愛的に意識するとかないくない? いや、この場合は性的、か? どうでもいいけど。

 ベッドの端に腰かけて携帯ゲーム機を始める俊の後ろを通って、部屋着になった俺はベッドに横たわる。そのうち、母がお菓子や飲み物を持ってきてくれた。気が利く。ありがたい。

 明らかに、これは日常的な光景だった。気が抜けて、バスケットボールを上に向かってぽんぽんっと軽く投げては受け止めつつ、雑談をしていたのだ。普通に仲のいい幼馴染の他愛のない会話だった。

 前世では親しい男友だちはいなかったが、今ではすっかり気心知れた仲――――。


「なぁ」


 沈黙しても別に気まずくなかったけれど、沈黙を破った颯太が読んでいた週刊少年漫画を閉じて、それを言い出した。


「キスの練習しない?」

「ぶっ!」


 キャッチし損ねたバスケットボールが、顔面に落ちる。それほど高く上げなかったため、それほど痛くはないが、いややっぱり軽く痛い。


「大丈夫か?」

「平気?」


 さっきまで適当な相槌しかしなかった俊と、そして振り返った颯太が心配してくれた。

 うん、このままさっきのことは、聞かなかったことにしよう。言わなかったことにしような? 颯太。


「うん、大丈夫。ところで――」

「で? キスの練習ってどういう意味?」


 話題を逸らそうとしたが、その前に俊が話を戻してしまったー!!

 ゲーム機もオフにして、俊は静かに颯太を見下ろす。

 俺はまずい展開だと、冷や汗をダラダラと流した。


「姉ちゃんが見てた海外ドラマでさ、外国じゃあ女子同士でキスして練習してんだって知ったんだ。なら男同士でも練習してもよくね?」


 よくねーなぁああ!?


「ということで、練習してみようぜ!」


 キラッキラに目を輝かせているが、颯太! お前っ! それは絶対にBLの始まり!!

 これか!! 導入イベントはこれなのか!!?

 落ち着け、光一。冷静に対処するんだ。そう回避だ!!


「落ち着けよ、颯太。どうせフィクションだろ……ぉ?」


 何故か俊の視線が、俺に注がれていることに気付く。颯太まで俺を見上げている。

 え、何、その視線はなんなの……?

 俺に、練習台になってほしいって訴えてんの!? だが断る!!!


「しようぜ!! いざって時に備えて!! それとも何!? 俺とキスするのは嫌なわけ!? 俺は全然許容範囲だけど!?」

「……俺も。幼馴染だし」


 いや、それおかしくない!?

 許容範囲なんておかしくない!?


「そ、それなら、俊と颯太でキスの練習すれば?」


 幼馴染同士なら、俺を巻き込まず二人でやってくれ!


「えっ」

「……」


 颯太と俊は、一度顔を合わせたが、すぐに俺に視線を戻した。


「いや、俊はなんか違う気がする」

「俺もするなら、光がいいと思う」


 なんでやねんっ!!!

 幼馴染は許容範囲じゃないのかよ!?

 なんで俺なの!? これが主人公なの!? 強制イベントなの!?


「なんだよ、嫌なのかよ? ファーストキスが大切ってやつ?」

「……え。ファーストキスなら幼稚園の時に済ましてんじゃん」

「ええ!? 光! おまっ! いつの間に大人の階段上がったの!? 陽菜なのか!? 陽菜だろ!」

「……高校入学してから、やけに二人で話し込んでたよな。俺達に黙って、付き合ってるの?」


 じとりと睨んできた颯太と俊に、オレは言い返す。


「陽菜とは、付き合ってないし。……驚くなよ、相手はお前らだよ」


 悔しいが、本当に悔しいが、ファーストキスはお前らに奪われてんだよっ……!


「えっ?」

「……?」


 わからないと首を傾げる二人。


「ほら、陽菜に罰ゲームだったかな? させられたじゃん……覚えてないの?」

「幼稚園の時は、特に覚えてないなぁー……まじかぁー」


 まじだよー。

 思えば、陽菜は幼稚園の頃から、すでに腐女子の片りんを見せていたのかもしれない。

 俺も俺で、前世の癖で色々やらかしてたなぁ。陽菜のことはお姫様扱いしてたし、怪我した子をお姫様抱っこしてたし……。いや元から、そういうキャラに転生したんだっけ? 元イケメン系女子に相応しいってこと? 神様?


「じゃあ、何も躊躇することなくない?」


 ん? なんでそうなるのかい、颯太君?

 ベッドに這い上がって、迫ってきた。


「もう一回するくらい平気だろ?」


 全然よくない。

 颯太、考えてくれ。新しい扉は、多分そうやって開くものだ。お前はBLの門をくぐって、道に一歩踏み出そうとしてるんだぞ。

 絶対これ、オープニングイベントだろうがっ!! これから幼馴染の友情が、恋にすり替わるって言う展開なんだろう!? そうなんだろう!? 陽菜!!


「変に身構えてる方が、気まずくなるんじゃない?」


 スッと壁に手をついて、物静かな目で見てくる俊。

 なんで逃げ道塞ぐかな? 近い!!


「観念しろ! 光!」


 ニコニコとしているが、颯太、お前なぁ……!

 回避! 回避しなくては!! 幼馴染という関係を維持したいならば! 俺はこいつらのためにも、回避をするんだ!!

 もう壁に追いやられているがっ!!!


「ところで、俺と俊、どっちと先にキスしたわけ? 幼稚園の頃」


 颯太の質問に、記憶がふっと湧くように思い出した。


 ――先にキスしたって答えた相手の好感度が上がっていくんだよ。幼馴染萌え!


 前世の親友の言葉だ。

 颯太だと言えば、颯太の好感度が上がり、俊だと言えば、俊の好感度が上がるのか。

 ならば、ここはっ!!


「あー、それは覚えてない」


 これで正解か!! どちらの好感度も上げない! ベストアンサー!?

 キリッと言い退けたのだが、俊は気に留めない様子で確認した。


「今からどっちが先にする?」

「えっ、言い出したのは俺だから、俺でしょ」

「は? なんでそうなるの」


 俊のバカぁああっ! 結局、選択肢が突き付けられる展開じゃないか!!


「光はどっちと先にする?」


 ほらぁああっ!

 内心で冷や汗かきまくっていたけれど、名案が浮かんだ。


「ごめん、やっぱり俺は……するなら陽菜としたい」


 この場にいない陽菜に丸投げした。

 すると、ガッと颯太は鞄を持って立ち上がる。


「んだよ! もうしたことのあるキスの練習だっつーのに! 結局俺とは気色悪くて嫌だってことなんだろう!? はっきり言えよバカ!」

「えっ、いや、そんなこと」


 気色悪いなんて、思ってないし。ただ、俺は……!


「もういい。嫌なら……もういい」


 俊まで怒った声音で、鞄の中に携帯ゲーム機をしまって立ち上がった。

 え。

 なんだよ。これ。

 ずっと仲良くしてたのに、こじれるのか……?

 酷く焦った俺は、部屋から出ようとした二人の腕を掴んだ。


「っ、わかったよ!! 一回! 一回だけ!! 一回だけだからな!? 今回限り!!」


 ただのキスの練習だ! 俺は練習台なんだ! 練習台にされるんだ!

 そう言い聞かせて、俺はやけくそになった。


「そうやって怒るのはやめてくれよ!」


 俺の方が怒ってベッドの上でふんぞり返る。


「いや、だって、なんか光に拒絶された感じがしただけで……怒ってないよ?」

「……同じく」


 そそっと二人は鞄を置くと、さっきの位置につく二人。

 いや、絶対怒ってたよな……? 絶縁されそうだと焦ったんだけど……?


「で、どっちが先?」


 その選択に戻るのね……。

 投げやりになって、俺は颯太を選んだ。


「もう言い出した颯太でいいんじゃない?」

「よし、きた。うわーあ、緊張してきた」


 ドキドキしているであろう胸を擦って、颯太は身を乗り出してきた。

 緊張してるなら、無理にしなくていいんだよ?


「こういう時って、目瞑るよな?」

「あ、ウン、ソウダネ」


 ……目を閉じておくか。昔は、ぶちゅっとしただけだけど。

 そう思ったけれど、必死に目を閉じて迫ってくる颯太の顔が、おかしくて俺は噴いてしまった。


「あ! 何笑ってんだよ!?」

「悪い悪い」


 笑ってしまうぐらい気楽にした方が、変に意識しないで済むかもしれない。


「なんか的外れなところ行きそう。ほら」

「!」


 颯太の顎を持って、くいっと持ち上げる。

 少女漫画だと、男の方は唇を見つめて、そのまま向かっていき、唇を重ねてから目を閉じていた。はず。

 このままだとお互い頭突きをしかねないが、見つめ合うのはおかしい気がするので、固定していた。

 いや、男同士でキスの練習するのも、おかしいけれどさ。


「ん」


 早く済ませてくれと、目を閉じてやった。

 押し付けられた湿った肌の感触。つい目を開くと、また必死に目を閉じている颯太の真っ赤に染まった顔があった。

 きゅん、と胸が締め付けられる。

 ……今、すんごい、ヤバい反応しなかった???

 ――――ヤバい。ヤバいヤバいヤバい。

 身を引いて、俺は颯太から離れた。


「ど、どう? 変、じゃない?」

「多分、オッケ!」


 恐る恐ると目を開いて確認する颯太に、親指を立てて見せる。

 単に唇を重ねただけであり、それ以上でもそれ以下でもない。

 さっきの胸からした変な音は、気にしない方向で!! むしろ忘れる方向で!!


「流石に照れんね!」


 なんて火照った頬を押さえて、背中を向ける颯太。

 照れるな! 平常心を保て! 絶対に、意識をしてはならぬ!!


「じゃあ、俊……」


 俊も、あっさりとやってくれ。

 唇と唇をくっつけるだけ行為だ。そう。それなら問題ない。

 俊の方を向くと、もう迫っていた。俺の右手に手を重ねると、もう顔を近付ている。

 少し顔を横に傾けて、唇を重ねてきた。俺の唇を、自分の唇で挟むように動かす。その上、グッと強く唇を押し込んできた。

 ん? んん? んんん???

 え。こいつ。なんか、上手く、ない? キスの上手さとか経験浅すぎてわからないけど、でも、なんか、慣れている感が……?

 そう言えば、昔最初にキスしたのって、確か俊だった。何故か、今思い出してしまう。

 固まってしまった俺から、ようやく離れた俊はいつもと変わらないように見えた。ただ、俺を覗き込む目が、真っ直ぐだ。


「……どう?」

「……どこで覚えた?」

「……?」


 あれ? 首を傾げられた。

 天然テク。天然テクってやつなの? 恐ろしい子!


「二人とも、多分上手い上手い。じゃあ、本番が来たら報告してくれよな!」


 のっ、乗り切ったぁああっ!

 俺は明るく言い退けた。そのための練習台になったんだ。

 女の子の恋人とする時は、事後報告よろしく!


「……う、うん……」

「……」


 両手を合わせて、顔を俯く颯太は、耳まで真っ赤にしている。

 変に意識するなよ? しちゃだめだよ? 絶対だよ?

 俊の方は、返答することなく、再びゲーム機を取り出しては再開させた。

 俊……? 返事しよう? なぁ?


「よし!! 三人でゲームしよう!!!」


 気を逸らすためにも、ゲームをすることを提案した。

 家庭用ゲーム機を起動して、三人で協力プレイゲームを始める。

 少しして、記憶がまたフワッと湧いてきた。

 熱のこもった親友の声が頭の中に響く。


 ――高校生になって、キスに興味を抱いた幼馴染二人と練習したことがきっかけで、意識し始めてからがスタート!

 ――主人公の光一も、ドキドキと意識し始めてしまい、BLの道を進んでしまうの!

 ――俊の方は、キスの練習をする前から自覚あったけれど、それを機に想いが止まらなくなってアタック! 滾ってくるよね!?

 ――颯太の方も、意識しすぎて挙動不審になって避けちゃうけれど、どうしても、もう一回したいってせがむの! 誘い受け!!

 ――幼馴染関係萌える!! やっぱり最高!! 二人を推すね!!!

 ――これが『光る純愛学園』の始まりだよ。やってみない?


「うあぁあーっ!」


 俺はゲーム中に大声を張り上げてしまった。

 やっぱり全力で拒むべきだったっ!!!

 完全に、BLの始まりじゃないか!! BLゲームが始まる本番じゃないかっ!!

 幼馴染の仲がこじれることをビビッて、俺ってば……! いくらでも仲直り出来たかもしれないじゃん!!

 ……いや、もう、だめだ。ゲームと違って、始めからやり直せない。

 右隣に感じる俊の視線が、なんか痛く感じる。

 自覚あったって……! こいつ、いつから……!? まじなの? まじなんですか!?

 もうすでに俺の幼馴染の一人は、取り返しのつかない道を、いつの間にか進んでいたのか!?

 しかも、颯太はこれをきっかけに、結局BLの道を歩んじゃうのか!?


「ど、どうした? なんで死ぬ前に叫んだんだ? 光」

「どした、光?」


 テレビゲームから視線を外して戸惑う左隣の颯太。そして、右隣の俊が覗き込む。

 どうしたじゃないよ。どうすればいいんだよ。どうしたらいいんだよ。

 ごめん。やらかして、ごめん。ほんとごめんよ、俊、颯太。

 BLゲームの本編を始めちゃって、ほんとごめんっ。

 俺がちゃんと親友の話さえ覚えていれば……。

 ……そもそも、忠告しない陽菜が悪いよな? 絶対あえて言わなかっただろう!

 おのれ、腐女子めーっ!!!


「なんか……ごめん」

「いや、そんなに謝らなくても……」

「コンティニューでい?」


 怒りを抑え込んで肩を竦めて謝罪すると、二人は慰めてくれる。

 そして、ゲームを再開した。


 元イケメン系女子だった俺は、現世でも王子様としてもてはやされている。

 ただし! この世界はBLゲームの世界だ!


 そして、主人公に転生してしまった!


 一緒に転生してしまった腐女子の親友のせいで、困っています!!!



 


 



以上、初BLもの、試し書き。

お粗末様でした。


20211229

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