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記憶のない僕らは  作者: 青山 立
第15章 MCU 僕だけが聞いていたこと
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(013) Area 30 Unstoppable 死神

 --死神-- #カイ


 北田さんが起爆装置のタイマーをスタートさせると同時に、北田さんの操作する端末と起爆装置のディスプレイに表示された『15:00』の数字が同時にカウントダウンを始めた。


「急ごう」


 薬品庫から出ようと非常口のドアノブを捻り、ドアを押し開けた瞬間、ドアの横に立てかけてあった二メートルほどの大きなハシゴがぐらつき、僕に向かって倒れてきた。僕はハシゴが倒れてくることには気がついたが、避ける時間がないことも明らかだった。このままでは全身打撲してしまう!


「カイくん!」


 北田さんの声が聞こえたと同時に、僕は非常口の外の床に倒れ込んだ。


 北田さんが咄嗟とっさに僕をドアの向こう側に押し出してくれたのだ。北田さんも僕を押し出した勢いで、僕のすぐ隣に倒れ込んできた。けれど、北田さんは全身を薬品庫の外に出すことができず、左足がハシゴに持っていかれてしまった。


「大丈夫ですか?」


 僕が起き上がり、急いでハシゴを持ち上げると、北田さんは這うようにしてハシゴの下から足を抜いた。


「歩けますか?」


 打撲した部分はズボンで隠れていて見えない。


「ああ、何とか大丈夫そうだ。カイくんは、怪我はないかい?」

「僕は、全然大丈夫です」

「そうか、よかった。なら、急いで外に出よう」

「はい」


 北田さんが立ち上がると、それまで北田さんにもたれかかるようにして開いていた非常口のドアが、ゆっくりと閉まった。閉まっていくドアの隙間の先に、僕は死神を見た気がした。


   ◇     ◇     ◇


 階段を駆け降りて、一階の正面玄関まで降りてきた。建物はどこも静まりかえっていて、ここがもうすぐ爆破で破壊されるなんて想像できない。


 第四脳科学研究所の西棟の外に止めてある車までは、おそらく五、六分でたどり着くだろう。


「間に合いそうですか」

「ああ」


 返事とは裏腹に北田さんの表情が険しくなっている。北田さんが足を押さえた。もしかして、さっきハシゴが倒れてきた時に足を挫いたんじゃ? 僕がズボンの裾をまくると、足首がパンパンに腫れ上がっていた。


「走れますか?」


 北田さんの額から汗が流れている。相当痛いのだろう。僕は北田さんの右腕を肩にかけて、北田さんの体を支えた。


「大丈夫だ」


 北田さんはなんとか体勢を整えると、前に体を押し出すようにして走り出した。建物の外に出ると、東の空にどんよりとした雲が立ち込めていた。今にも嵐が来そうだ。


 

 空を見上げた瞬間、唐突に僕の目の前にメッセージが現れた。

 僕の目のレンズに、博士が今アクセスしているのか?

 いいや、ネットワークを遮断するカードをMCUの側に忘れてきたから、建物から出た途端にネットワークへ接続されて、既に送信されていたメッセージが今受信されて、自動で表示されたんだ。


 ————————————————————————————

 カイ。さよならだ。

 私には、すべてを終える準備ができている。

 今、ミエがMCUのある脳科学研究所に向かっている。

 もし間に合うようなら、

 ミエが爆破に巻き込まれないように、食い止めてほしい。


 私がいなければ、私が何も望まなければ、

 これほど多くの人を苦しめることはなかった。

 この装置のせいで誰かが傷ついたり、

 犠牲になることはもう耐えられない。


 私がすべて間違っていた、 Loading... ————————————————————————————


 メッセージはまだ続いているようだが、接続環境が安定していないようで続きを読み込むことができない。


 僕は今まで張り詰めていた糸が切れるように、目眩と頭痛に襲われて、立ち止まってしまった。 


「カイ、どうしたんだ?」


 北田さんは僕の数歩先で足を止め、振り返って僕を見ている。

 立ち込めた雲の隙間に稲妻の光がチカチカと走り、ゴロゴロと雷鳴が響き渡った。

 瞬く光が眩しくて仕方ない。

 そうだ。今まで、どうして忘れていたんだろう……。いいや、違う、何もかも忘れたかったんだ。


「急いで戻らないと!」

「どういうことだ?」


 読んだばかりのメッセージについて、必死で北田さんに伝える。


「北田さん! 今さっき、外に出てきた直後に、僕の目に埋め込まれたレンズに、神作博士からのメッセージが送られてきたんです。博士は爆破以外の方法でMCUを破壊しようとしています」


「何を言っているんだ? 早く! できる限り遠くまで逃げないと危険だ!」

「僕は急いで七階に戻らないと!」


 北田さんが端末の画面を確認して、言葉を失った。

 タイマーには『12:11』と表示されている。


「起爆装置のタイマーが止まってるんですね。やっぱり、博士が薬品庫にある起爆装置を止めたとしか考えられない。博士は僕たちが安全な場所に移動した時点で、MCUの中に入って直接装置を破壊し、そこで死ぬつもりなんだ!」

「博士が何を考えているかなんて何もわからないだろ? 君が七階に戻った時点で薬品庫を爆破するかもしれない」

「でも、やっぱり僕は、博士を残していけない!」


 僕が一歩も引かないので、北田さんは首を横に振ると、ため息をついた。


「わかった。それなら私も戻る」

「いいえ、北田さんはできる限り西門に向かって走ってください。そして、ミエが現れたらMCUに近づくのを止めて、できる限り安全な場所に身を隠してください」

「私が君をここに連れてきた。私は君を守る義務がある」


 どうしてみんな、僕を守ろうとするんだ? どうしてみんな、こんなに優しいんだ?


「あなたの誘いに乗るかどうかは、僕が自分で決断したことです。北田さんのせいじゃありません。

 僕が博士を説得して起爆装置のタイマーを再開させます。僕の記憶が正しければ、起爆装置をスタートさせて三分ほどなら、薬品庫のガスの濃度がまだ高くないから起爆装置を再開するために薬品庫にもう一度入ることができますよね」

「確かに、まだ装置を再開できるが、君はどうしてそのことを知っているんだ?」

「信じてください。思い出したんです! 今はこれ以上時間を失うことができない。北田さん、お願いします‼︎」

「わかった。とにかく気をつけてくれ! 私はミエを引き止める」


 北田さんは起爆装置を操作するためのアプリの入った端末を僕に渡すと、西門に向かって走り出した。


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