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記憶のない僕らは  作者: 青山 立
第14章 国立第四脳科学研究所と国立農場
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(016) Area 29 Treasure 国立農場

 --国立農場--#リク


 国立農場へ侵入は、あっけないほど簡単だった。


 トキさんの家の物置の床下には、高さと幅が一メートル半ほどのトンネルが掘られていた。トンネルの天井、床、壁がすべては木の板で補強されていた。


 天井が若干低いので、屈んでトンネルを奥へ奥へと進むと、トキさんに聞いていた通り、道が二手にわかれていた。


 予想外だったのは、トンネルの中までレインがついて来てしまったことだった。引き返すように言っても、言うことを聞く気配すらない。仕方なくレインも一緒に連れて行くことにした。


 二手に別れた道を右に曲がってしばらくすると、行き止まりになっていた。そこだけはトンネルの高さが二メートルほどあり、アルミの脚立が折り畳んで壁際に立てかけていあった。その脚立を広げて立て、早速登ると、天井にある木の扉に手が届いた。その扉を上に押し開けると、その扉が倉庫の床の一部であることがわかった。

 レインは脚立を登ることができなかったので、抱き抱えながら、なんとか脚立を再び登り、レインを先にトンネルの外に出した。私の身長では、脚立の最上段にたっても、上半身がやっと床から出るほどだったので、這い出るようにして、なんとか倉庫の床に這い出るようにして登り、なんとかトンネルから出ることができた。


 立ち上がって、倉庫を見回す。至る所に蜘蛛の巣が張っていて、古い農工具の上には埃が積もっている。今はもう使われている様子のない、古い倉庫だった。倉庫の床は木製で、トンネルへの扉は、閉めると床と同化するように作られていた。


 倉庫の扉には鍵がかかっていたが、内側から簡単に開けられるタイプのだったので、外の様子を伺いつつ静かに扉を押し開けた。扉の外は東門の近くにある貯水槽の裏で、人気がなく、門から死角になっていた。


 農場のマップを見ながら、農場の中核とも言える農作物を栽培する建物に向かい歩き出すと、巨大なガラス張りの建物が目に入ってきた。

 その建物には、門の外から農場の中に入ろうとするMCPの家族や知り合いが押し寄せてきていたが、その人波の流れとは逆に、多くのMCPが戸惑いながら外に出ようとしていたため、建物の中は人波がぶつかり合い混沌としていた。


 私は端末の画面に映るおばあちゃんの姿を確認した。おばあちゃんの映る映像の端に413と番号が記載されている。おばあちゃんはの様子はトキさんの家で確認した時と変わっておらず、周りの様子に戸惑い、テーブルに置いた食事に手をつけることもなく、席からも立てずにいるようだった。

 さっきトキさんにもらった国立農場のマップにも所狭しと番号が書かれている。私の近くにあるカメラが二台あり32と56と番号が記載されている、同じようにマップにも32と56が記載されている。マップ上で413を探すと、西門近くにあるかなり広い食堂に401-450と記載されていた。


 私はマップ上で食堂までの経路を確認した。いくつかの経路が見つかったが、その中でも人通りの少なそうな経路を選び、食堂に向かって走り出した。

 

 食堂に向かう途中で、途方に暮れる人を何人も見た。


 巨大な農園にはさまざまな野菜が所狭しと栽培されている。自分が日々食べていた野菜や穀物が、連れ去られ、死んだように偽装され、記憶を制御された労働者によって栽培されていたなんて、考えるだけでも恐ろしく、人間という生き物に嫌気がさしてしまいそうだった。


 自分では正しく生きているつもりだったのに……。


 誰かの犠牲の上に自分の生活が成り立っていることを、これほど痛切に感じたことはなかった。


   ◇     ◇     ◇


 工場の東門から西門までは直線距離で五キロメートルほどある、私は四十分ほどかけて、おばあちゃんのいる西門の近くにある食堂にたどり着いた。

 食堂には西門から入ってきたと思われるMCPの家族や、薬を飲んで既に記憶が回復したMCPもいて、門に行けば薬をもらえると声をあげている者もいる。


 端末の画面に映し出されている監視カメラの映像を確かめながら、食堂の中を探して回る。

 食堂の入り口に設置されている監視カメラを確認するとその番号は430だった。食堂内の監視カメラは401から450だが、番号順ではなく、順不同ランダムに設置されているようだ。

 食堂は想像していたよりも広く、デーブルと椅子が整然と並んでいて、おばあちゃんが座っている位置をなかなか特定できない。


 目を皿のようにして監視カメラの映像と目の前の光景が重なる場所を探していく。

 もう、食堂の九割ほどを探したはずだけれど、おばあちゃんの気配すら感じられない。本当に現在の映像が送られているのか不安になり、気分が悪くなってきた。

 レインは心配そうに私の前に回り込んで座り、顔を見上げてきた。床に座り込んでしまいそうだけど、なんとか踏ん張って周囲を探す。



 食堂でおばあちゃんを探し出して、二十分くらいしただろうか、おばあちゃんが映っている映像の右端に、私の姿が一瞬映し出された。間違いない! ここだ!



 少しづつ左に移動すると、おばあちゃんの後ろにいる私の姿が画面に再び映し出された。その私は息ができないほど緊張して、手から震え、端末を落としてしまいだった。後ろからそっとおばあちゃんに近寄っていく。おばあちゃんが私に気づく様子はない。


 正面に回ると、監視カメラで見ていた姿のまま、食事にはまったく手を付けずに、戸惑った表情で周りを見渡すおばあちゃんがいた。

 他人の空似じゃない、左の耳たぶに大きなほくろがある。おばあちゃんに間違いない! 私はテーブルを挟んでおばあちゃんの向かい側に立つと、そっと薬を差し出した。


「おばあちゃん、この薬を飲んで」

「あなたは誰?」

「あなたの孫のリクです」

「リク…さん? 私に孫が……。これがみんなが言ってる記憶が回復する薬ですか?」

「そうだよ」


 心臓が悲鳴をあげているのではと思うほど胸が痛い。私のおばあちゃんに間違いないのに、おばあちゃんは私のことはやっぱり覚えていないんだね。


「この水でその薬を飲めばいいの?」


 おばあちゃんは、目の前にあるコップを指さしている。


「うん」


 私の手から薬の入った袋を受け取ると、おばあちゃんは袋を開けて錠剤を取り出した。目の前にあるグラスに入った水で薬を飲み込んだ。


「おばあちゃん、一緒に帰ろう」


 私が差し出した手をおばあちゃんが握る。その瞬間、おばあちゃんの表情がほんの少しだけ和らいだ気がした。


   ◇     ◇     ◇


 西門は、思っていたほど混み合っておらず、二十分ほどで、門の外に出ることができた。


 おばあちゃんと農場の外に出たら瞬間、西門で薬を配っていた凪さんが私を見つけて走ってきた。


「リクさん! ミエからあなたのバイクを預かっているの」

「ありがとう、凪さん。ミエは今どこにいるの?」

「急いでいたから、多分、柏原さんのところに戻ったんだと思う。よかったら、私たちの待機用の車で休んでいてください」

「ありがとう」


 おばあちゃんはまだ記憶が戻ってきている途中のようで、不安そうだ。けれど、私に連れられて車の後部座席に座ると、安心したように私の名前を呼んで、目を閉じて眠ってしまった。レインは助手席に座ってくつろいでいる。


 私はおばあちゃんの隣に座ると、端末をチェックした。

 数え切れないほどのニュースや警報が出ており、船引さんの計画通りに政府の機関が停電により麻痺し、国立農場からMCPが解放され、次々と記憶を取り戻している様子が手にとるようにわかる。


 計画は順調に進んでいる。個々の家にも薬が順調に配達されているようだ。それでも、不安な気持ちが拭いきれず、端末の通知画面を一つ一つ確認していく。緊急速報がたくさん送られてきているが、どれも船引さんから聞いた計画の内容通りだったので、安心して気が緩みそうになった。


 そんな矢先、それらの速報に紛れて、DR・Appに新着の配達依頼が届いた。


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