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記憶のない僕らは  作者: 青山 立
第12章 DA3
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(029) Area 26 People who change the world 国立農場東門

 --国立農場東門--#柏原


 トキさんの家から一番近い東門のすぐ脇に、舵やナオトたちは待機している。

 ミエに渡された薬を彼らに渡すため、私は今バイクで東門まで向かっている。トキさんの家から東門までは、バイクで数分の距離だ。


 東門は普段出入りに使われることがほとんどなく、無用の長物(ホワイトエレファント)とも言えるものだ。形だけはしっかりしているので、門前にくると威圧感があるが、事前に状況を確認しにきた時には、東門付近には人通りがほとんどなく、監視官がまともに仕事をしている様子は見られなかった。


 私の視界に、門の近くに停めてある車で待機している舵たちの姿が見えてきた。


「ドクター、何かあったのか?」

「いいや、計画通りすべて上手く行っている」


 私の姿を見つけたナオトが車の運転席の窓を開けて話しかけてきた。ここにいるのは全員、地下世界で共に過ごしてきた仲間だ。私は助手席の後ろの席が空いていたので、車の中に乗り込んだ。


「あと十分ほどで、ネット上に農場の映像が公開されて、門が開く。門が開いたら、これを出てくる人に配るんだ」


 ミエに渡された紙袋の中身を見せる。紙袋の中には五センチほどのプラスチックの小袋の中に錠剤が入っている。助手席にいる舵が不思議そうに首を伸ばして袋の中を覗いてきた。


「驚くな、これはMCPを元に戻す薬だ」

「まさか! どこでどうやってこんな薬が開発されたんだ? 偽物じゃないのか?」


 舵は目を丸くして、薬の入った小袋を一袋手に取った。


「いいや、本物だ。国の研究施設で働いている状況を逆手に取った研究者が、長い時間をかけて極秘に開発したものだ。この薬を門から出てくる人に渡していくんだ。薬の袋には薬についての説明と薬の成分やその他の関連データを公開しているアドレスが記載されている。誰にも薬を飲むことを強要しなくていいから、この薬を配るんだ。記憶が戻らないままMCPが農園内に出ると、他人に利用される可能性が高い。彼らが自分自身を取り戻す手伝いをするんだ。いいな」


「どうして今まで隠していたんだ?」


 舵はひどくショックを受けている様子だ。


「すまない」

「帆澄は、イズミはもう薬を飲んだのか?」

「帆澄には船引さんが届けている」

「何で! 俺が行かなきゃ!」


 予想通りの反応だ。舵が焦るのも不思議じゃない。何年もこの時を待っていたんだ。でも、今はまだ、ここにいてほしい。


「だめだ、この門を守るんだ。もう後戻りはできない」

「でも」

「頼む! お願いだ」

「わかった」


 強く主張すれば、舵が折れることはわかっていた。

 私は、自分がひどく卑怯な手を使っているように思えた。


 滅多に開閉しない門だからか、錆びた鉄の擦れる音がして門が静かに開いていく。


「ネットに映像が上がった。紐付けされた相手にも情報が発信されてる! 父さん。父さんに会える……」


 車の中で情報を確認していたナオトが声を震わせている。彼は何年も前に父親を失って、地下世界にやって来たが、数週間前に農場の映像に父親を確認していた。彼にも現在の父親の映像が届いたのだ。


「車から出て、門の前で待つぞ! 薬を配るんだ」


 舵は薬の入った袋を持って、車から飛び出ると、門の前に向かって走り出した。そんな真っ直ぐな舵の背中に向かって私は呟いていた。


「舵、ごめんな」


 私はまだ、君にさよならを言う準備なんてできていない。


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