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記憶のない僕らは  作者: 青山 立
第10章 柏原と北田の思惑
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(045) Area 20 Involved 表裏

 --暗い箱の中-- #カイ


 僕は今、第二開発地区(DA2)にいて、今朝出会ったばかりの神作博士の研究所の奥にいる。


 研究所と言っても、事務所とキッチン、リビングが二、三十畳ほどの開けた空間に詰め込まれていて、何とも統一感がなく、至る所に本や雑誌、機械の部品が転がっていて、まともな研究所というより、子どもの秘密基地というか、ただの遊び部屋にしか見えない。


 リクは何の計画もなしに僕を第二開発地区(ここ)に連れて来たようだ。僕の体内のマイクロチップに書き込まれた情報では自分が鷺沼さぎぬまカイだと言われた。


 けれど、自分としては何も自分のことがわからない状況で、第二開発地区にいることが安全だとは思えない。その上、あの火事の日からもう二ヶ月以上経つのに、オヤジさんのことも何も分らないままなんて……。


「アン、アン!」


 聞き覚えのある鳴き声で、現実に引き戻された僕は、あたりを見回した。


 店の奥からリクの飼い犬であるウェルシュ・コーギー・カーディガンのレインが、太い胴体を左右に揺すりながら、楽しそうに歩いてくる。今朝見たときにも太い胴体だとは思ったけれど、レインはかなり丸々とした体格をしている。食べるのが相当好きなのだろう。


「レイン、今までどこに行ってたの? それとも僕が気が付かなかっただけで、店の中にずっといたの?」


 レインは僕の顔を見上げて、首を傾げている。


「その子の口元見てみなさいよ」


 リクが呆れ顔でレインを見ているが、レインはそんなリクのことなどまったく気にしていないようで、何かに満足した、幸せそうな表情で僕を見ている。そして、その口元にはミルクのようなものがついている。僕はレインの頭を撫でた。


「近所中回って、いろんな人から食べ物もらってきたのよ。そうじゃなきゃ、私があげてるご飯だけで、あんなに太る訳ないもの! 毎日食事の量を管理しているこっちの身にもなって欲しいは……」


 リクは少々機嫌が悪い。確かにレインの健康を考えると、もう少しスリムな方がいいだろう。


「へぇ。レインは人気者なんだね」


 レインはまだお腹が空いているのか、僕から離れると、鼻をひくひくさせながら店内をちょとこちょこと歩き回っている。そんなレインの姿を追っていた僕は、神作博士の姿が見えないことに気がついた。


「そう言えば、博士はどこに行ったんですか?」


 僕の問いにリクは両肩をあげて、わからないという仕草をした。リクにとって博士の店は勝手知ったる場所なのだろう。くつろいだ様子でカウンターの横にある小さなキッチンに向かい、珈琲を入れ始めた。ただ、気にかかることがあるのか、表情が少し曇っているように見える。


 僕はリクに聞きたいことがまだ山ほどあったが、疲れがどっと出てきてしまい、椅子に座ったままウトウトしていた。




 "行くぞ、カイ。きっと明日からは何もかも上手くゆくさ"


 誰の声だろう? どこかで聞いたことがある……。


 "俺は明日なんていらないんだよ、おじさん"


 どうして僕は、何もかも諦めたように宙を見ているんだろう?


 暗い箱の中で動けずにいる。


 "さよなら、おじさん"


 そう、僕は明日なんていらなかったんだ……ずっと。


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